6月 「お前もオレも奴にとっては一つの駒にすぎない。お前もそれは分かっているだろう」 ベッドから上半身を起こして手際よく長い髪を束ねようとする手が止まる。 その隙をみて赤髪の男が腕を掴む。一度起こした体がベッドに沈む。 「あの人の前では抵抗など無意味だ」 肩にかかる黒髪を払う。流れるように美しい髪は手の動きに従順だ。普段なら外套を着ているため分からないものの、直に触れれば細くなったことを明確に証明している。 そのまま鎖骨に手を這わす。外套を着ていないので容易に成しえた。鎖骨には深くないが切り傷が痛々しく残っている。 「分かっているのだろう」 もう一度同じ言葉をかける。しかし返事どころか先程から動きもせず、ただ無表情に見つめ返してくるだけ。 全く、馬鹿な奴だ。 この傷をあの人につけられた時もこうしていたのだろう。それが嗜虐心を誘うということも知らずに。 「フッ…お前はオレと同じだ」 「違うっ!」 呟く程度に言った言葉に予想外に反応を示すイタチ。長門でさえそれには驚いた。 「オレは……」 悲しそうに目を伏せる。その姿が傷と相まって胸を締めつける。 「オレはお前のように済んではいない」 長門の下で動く気配があったのですんなりと手を離す。イタチはそれがごく自然であるかのように体を起こし、台の上の錠剤を口に含み、水で流し込んだ。 「オレは汚れている」 それは一族のことを指すのか、それとも同胞を殺したことか、病のことなのか判断がつかない。 だがそれよりも長門は自分が澄んでいるとは思えなかった。 平和を願う弥彦を誤りとはいえ手に掛けた。平和を第一としてやってきたが全て奴の思惑通りだったのだから、むしろ滑稽である。 長門にはイタチの方が澄んでいるように感じる。心も体も儚さが漂う。だから美しいと感じてしまうのだろうか。マダラが目をつけたのも分かる話だ。 だがそんなイタチを哀れにも思う。 自分と同じ立場であるというのに、何故か抱きしめられずにはいられなかった。 「長門…オレは…」 声が掠れ、抱きしめ返す力は弱弱しい。効き目の強い薬でなんとか維持している生命は終わりを迎えようとしている。イタチの望んだ形で。 長門はイタチを抱きしめたままそっと髪を撫でてやった。 |