7月

満月の夜。
月の光を遮るように雲は月を覆い隠す。大きな雲は流れるように動くものの、月が顔を出すことはない。

「今宵は朧月ですねぇ…」

先程までいなかった相方が隣で自分と同じものを見上げながら呟いた。それに答えずにただ流れゆく雲を見ていると、視界に入る相方が肩に手を乗せた。

「いつまでもここに居ては体が冷えますよ」

最近ずっとこの調子。イタチは小さくため息をつく。やはり相方に病のことを告げるべきではなかったと今更ながら後悔した。

「そんなに気にかけるな。大したことはない」

「しかし…「もういい。さっさと寝るぞ」

一時休息を取るために、鬼鮫が見つけた洞穴へとくるりと月に背を向けて向かおうとする。一歩足を進めようとした時に視界がぐらりと歪んだ。

「うっ…」

ぼやけた視界はいつもならすぐに戻る筈だが、なかなか戻ることはない。うっすらと二重に見えるものは、視点が定まらず距離も掴めない。その気分の悪さにイタチは地に膝をついた。

「イタチさん!」

相方の鬼鮫の声がする方へ目を向けるもぼんやりとしか見えない。表情は目で判断しかねるが、声からして脳裏で容易に想像がつく。

「…き…さめ」

名を呼べば先程のように肩に同じ感触が伝わる。その感触を弱弱しく辿ると、肩の手がイタチの手を握り締めた。

「心配するな。ふらついただけだ」

ただの空元気であることは鬼鮫もすでに察していた。しかし、それを口にしてしまえばイタチの自尊心を傷つけることになる。その言葉を発することなく、鬼鮫が納得したのは、そういう意図があったからだ。

「そうですか…」

鬼鮫がその言葉を呟いた時も、やはり依然として苦しげな表情でいるイタチ。しかし、ふわっと急に体が浮いた。どういう状況か察しにくい視界を無理にでもこじ開ける。
次第に痛みが走るようになってきたが、その甲斐あってか把握はできた。

「…下ろせ」

「嫌ですよ」

鬼鮫に抱えられたまま、運ばれる。また気を遣っているのかと思うと更に苛立ちが増す。優しすぎる相方の手から逃れようともがく前に鬼鮫の言葉が響く。

「私が好きでやっているだけですから」

そうだった。イタチはもがくのを止めた。どこまでも優しい相方に一言だけ言って瞳を閉じた。

「好きにしろ」




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