現世

「その後、フガクはオレの元にやってきた。そこにいるダンゾウを殺すよう依頼するためにな」

イタチは弾かれるように振り向きダンゾウを見た。
背を向けて倒れているが、首の傷痕を見れば分かる。上手く致命傷を狙って斬られている。人斬りには手慣れているようだ。

「何故…父さんはお前なんかに頼む必要があったんだ」

歯を噛み締めるようにサスケが言った。父の強さは知っている。真剣の斬り合いなら右に出る者はいない。
男はもっともだと言うように深く頷いた。

「確かに、強さならば頼る必要などない。しかし、立場の問題があった。同盟国の大名を自分が殺したとなれば、すぐに同盟は破棄されてしまう。それはイタチの意志にも反する」

話の筋が飲み込めたイタチが目を伏せる。やはり見込んだ通り、聡い奴だと鼻で笑い、サスケに目を向ける。

「だからオレに依頼をした。オレはうちはでありながら放浪の身。身元も隠していたから、あってないようなものだからな」

「ならば…何故同胞に手をかけた?」

これはイタチが知りたかった最大の疑問だ。殺す必要など無いに等しい。火ノ国には何者かの襲撃があったと伝え、自分たちが仕組んだことなど明かさないのだから。

「…フッ、それならばオレに何一つ利益は入らないではないか」

訊かれることを待ち望んでいたかのようにニタリと笑う。
その笑みを見たくないと顔を背けると、一瞬で仰向けにされ上を向された。これではいやがおうでも相手を見なければならない。

「オレは良い利益を見つけた…それがお前だ」

驚嘆のあまり声も出ない。まさか自分のために大名や同胞を手にかけるとは。目を見開くと、男の口元が更に孤を描くように歪んだ。コイツは自分が驚くこの表情を見たかったに違いない。

「それだけのためか…」

ぽつりと無意識のように呟いた言葉は、イタチにとっては空気のように軽かった。果たして意味にどれだけの重さがあるというのだろう。

「こいつが大切か?」

いつの間にか上に乗っていた男はおらず、サスケの傍で前髪を引っつかんで持ち上げている。
叫ぶよりも早く体を動かそうとしたが、サスケの首に当てられた短刀が光る。大人しく動きを止めた。

「来い」

イタチは眉をひそめた。すでに自分のもののような言い方だ。逆らえないことは分かっている。だから余裕の笑みを浮かべているのだ。
憎々しく思いながらも相手の思う通り、逆らうことはできない。イタチは立ち上がり、男の方へと歩む。歩みながら考える。足取りが重いのか、思考が早いのか、不思議と時間は長く感じられた。

(馬鹿げている)

辻斬り、拐し、戦、欺き…。
己の利益のために畜生になっても良いというこの世を幾度もそう思った。義に背いてはならない、そう言った父もまた、義に背いていたのだ。

(これではまるで…オレが起こしたようなものじゃないか)

皆して自分のために争ったも同然ではないか。イタチには自分が価値のある人とは到底思うことができない。
自分が起こした惨劇を受け入れることが出来ない。しかし目の前に広がる惨劇は現実。逃れることは出来ない。
目は眩みながらも現実を映し、イタチを現へ引き戻そうとするが、目眩が現実を閉ざすように世界を歪ませる。精神と身体が別々の意志を持っているかのようで、イタチは思うように動けない。ついに体勢を崩して地に倒れる。

その寸前、男が素早くイタチを受け止める。ぼんやりとした瞳は男を見ているが映してはいないだろう。

「…好きにしろ」

それが何に向けられて発したものか考えもしないまま、男は獲物を手に入れた獣のように口元を歪ませた。




















こんな展開してみたかった!というのが本音です。
兄さんの取り合いで大惨事(いわゆるバタフライ現象)は時代劇ならではの展開です。
ちなみに木ノ葉国と火ノ国は合体しました。大名のダンゾウが死んだので「行くとこないです」と城やら明け渡して仲良く木ノ葉国で暮らしています。

2011/10/30

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