真相 イタチもサスケも動けない。この状況下では為す術は何一つない。男は喉奥でくっくっと笑った。 「綺麗だな…オレのものになる気はないか」 くい、とイタチの顎を持ち上げて上を向かす。イタチの白い肌と反抗的な視線は、男を煽情するだけであることを本人は知らない。 「誰がお前なんかの…!」 「フッ…それでいい」 イタチの首にそっと手を這わす。猫を撫でるよう手つきだが、イタチが猫のように甘えることはない。声を殺して異様な感覚に堪えている。 「お前は…一体…」 蹴られた腹を押さえながら立ち上がろうとするが、体が動かない。ケホケホと咳込みながら虚ろげな目で相手を睨む。 鋭く憎しみがこもった目を向けられても、男は怯みもしない。それどころか男はどこか楽しんでいるようにも見えた。 「丁度良い。お前たちに真相を話してやろう」 その言葉にイタチは形相を変えた。サスケには理由が分からなかったが、男が何を言おうとしているかは分かった。 「やめろ…!それだけは…うっ……」 口を挟むイタチに男がすかさず頬に切傷をつけた。 「痺れ薬が入っている。少し大人しくしておけ」 四肢はおろか口も動かせなくなってきた。はっきりした意識と目だけでサスケの姿を捉えるも、伝えたいことが伝わることはない。 薬の効果を確認してから男は話しはじめた。 時は遡り、数週間前のこと。 それは、サスケが寺子屋に行っている間にイタチがフガクから知らされた。 「隣国の火ノ国の大名であるダンゾウ様が、お前を指名している」 木ノ葉国は火ノ国と同盟を組みたいと書状や使者を長年出していたが、良い返事は返って来なかった。それが突然条件付きで承諾するという返書が届いたのだ。 その条件というものが、先のフガクの言葉だった。 イタチのことは広く知れ渡っている。高貴な者たちの護衛役を文武両道でこなすイタチは、護衛はイタチを、と指名されることも少なくなかった。だが今回の指名は護衛ではない。仕えるという意味だ。 「分かりました」 「……!」 すんなりと承諾するイタチの意図を掴めないといえば嘘になる。無論、イタチは政略であることを既に理解している筈だ。だからこうも容易く返答したのだ。イタチは平和を愛していた。 火ノ国との同盟を主張していた本国の大名と同じ意見をイタチは持っていた。 「事が成されるのであれば、それに越したことはありませんから」 イタチの昔からの性分だった。事が成されるのであれば、イタチ己の身を犠牲にしてもいいという。ダンゾウがイタチに目をつけたのは、その性分のこともあってのことだろう。 「…実は父上、前もってヒルゼン様から聞かされておりました」 木ノ葉国の大名であるヒルゼンの使者の護衛にイタチがついたのはごく最近のこと。おそらくその時に聞いたのだろう。 クスリと笑うイタチだが、別に話を軽んじているわけではない。イタチにしてみれば、この身一つの仕官で事が成されるのが嬉しくて仕方ないのだろう。 「しかし本当に良いのか?当分はこの国に…」 「無躾ながら父上、話がくどいようですが」 きっと睨むような目つきを自分に向けるのは久しぶりだった。前に見た気はするものの、何のことだったか覚えていない。 敵に向けるものとはまた違う目つきは静かだが怒気が滲み出ている。 それにフガクは口を閉ざした。 確か前も同様の結果だったと朧げな記憶が蘇る。 「分かった…もう何も言うまい」 イタチはニコリと笑う。それに話は終わりだというように席を立って襖を閉める。 既にフガクの脳内には恐ろしいことが計画されていることなど、イタチには予想もしていない。 次→ この話のフガクパパはかなりイタチに甘いです。私の中でフガクパパはもっと厳しいです。 兄さんの意志なんて関係なく全て押しつけて…。兄さん褒めたり、兄さんの牢行き止めたりしてたけど、二重スパイやらせてるなら結局イナビ達と変わらないんじゃねぇか首謀者さんよぉ!! そんな脳内のフガクパパを緩和してます。ヒルゼン様にも何度も頼んだり、ダンゾウ様に自ら書簡出して「自分が行きます」って書いたり…そんな優しい父上。 2011/10/18 ←top |