08

聞き終えたイタチは茶をすする。既に団子の皿も串のみとなっている。

「あの後、サスケってば兄ちゃんに会いたくなったっつってさ、それですぐ帰ったんだぜ」

「…あぁ、思い出していたところだ」

ナルトの話を聞いているうちにサスケが任務から帰ってきた時の記憶は蘇っていた。
あの時帰ってきたサスケは確かに「別に変わりはない」そう言った。そしてその後に言った言葉も思い出した。

「ただ、イタチの顔が見たくなったんだ」

強い力で抱きしめられながら「会えて良かった」なんて言い出すものだから可笑しくてただ笑った。そんな事があったなんて考えもしなかった。
悔やみきれず唇を噛み締めたところをナルトは見つめていた。

「団子、ごちそうさま」

ニコリと微笑んだがいつもとは違う感覚を覚えた。その理由は一瞬でイタチの姿が無数のカラスになったことで分かったが、ナルトにはそれだけではないような気がしていた。





コトリ、と湯呑みを机に置く。中はただの冷水。それと同じく机に置いてある瓶の中のもの一錠と共に喉に流し込んだ。吐き気などの症状はないが、少しの頭痛はある。それが何を意味しているかは分かっている。
何錠かを懐にしまい込んですぐに病室に移動する。が、自分の病室ではない。

カラカラと扉を開けると静かに寝息を立てているサスケが居た。いつもと違うのは部屋だけだなと思いながらそっと近付く。今のサスケにとって自分は赤の他人だ。気配を消してサスケを起こさないよう慎重に傍まで歩み寄る。

「こんなお前を見るのは始めてだ」

事実そうだった。憧憬も憎悪も好意も全て一途に自分に向けられていたことをイタチは知っている。今のサスケに僅かばかりではない寂しさを覚えるのも仕方ないくらいだ。
頬を指でそっと撫でる。指から伝わる温かい体温は昔と何一つ変わらない癒しを与えてくれる。

「サスケ……」

いっそのこと自分が居なければ。そうすればサスケは今よりずっと幸せになれるのでは…と何度里に帰ってきて思っただろう。
その度にサスケは言う。
お前がいない世界などオレにとって苦しみでしかない、と。

「それが本当であるかなど分かる筈がない。だが…」

ピクリとサスケの眉が動く。どうやら眠りも浅いらしい。いつ起きてもおかしくない状況の中、イタチは焦ることもなく立っていた。
ゆっくりとサスケが無意識に口を開ける。何かを呟こうとしているも、夢の中の意識が動作を困難にさせている。口を開いては聞き取れないくらいの呟きの繰り返し。その中で一つはっきり聞こえた言葉があった。

「ナ…ルト」

聞いた時の気の沈着さの中に混じる一つの感情。それを寂しさと理解できたのはナルトに言われてからというのは、情けない話だ。
イタチはふと微笑む。どうやら自分にはサスケがいて、サスケには自分がいないとダメらしい。自分の我が儘に呆れ果てる。
それでも、サスケも同じ想いであれば。勝手な思い込みでも自分の理由立てかもしれないが、イタチは祈る。

「オレの存在がお前の幸せに繋がるのなら…」

目を閉じサスケとの思い出を思い返せば、いつでも自分を呼ぶサスケが脳裏に蘇る。
望んでいたこの結果に満足していない矛盾を消し去るように、窓から吹く風が髪をなびかせる。ひやりと冷たい風はイタチにどうするのかと問い掛ける。風に答えるようにイタチは眼を閉じてしっかりとした視線をサスケへと向ける。目を閉じたままのサスケは、律動的な呼吸を繰り返すだけ。


「またお前の記憶の中に」

サスケの額に二本の指でそっと触れる。昔こうしてよくこづいていたことを思い出す。指を額から頬へと輪郭を優しくなぞるように触れ、離す。離した後には、その代わりをするかのように冷たい風がサスケの髪を揺らした。




















第弌話完結です。
長くなりましたがここが弌話とずっと決めておりました。こんなに長くなるとは思いませんでしたけど。
サスケはしばらく出ません(第弐話)名前ならどんどこ出ます

2011/10/4

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