仇桜 マダラ→イタチ寄りなマダイタ。 兄弟対決近々のお話。 「明日ありと思う心の仇桜 夜半に嵐の吹かぬものかは」 「何ですかそれ」 不思議そうに問い掛けるイタチにふと笑う。 「人の生は明日どうなるか判りはしない…そんな意味だ」 月が雲で陰る。朧げに見える月にふっと静かに笑みをこぼす。 音を立てずに木から降りれば満開の桜。見事な夜桜を前に花見酒か月見酒どちらに洒落込もうか考える。 「全くその通りですね」 冗談とでも言うように軽い口ぶりで返される。自分に対して言われたという自覚はないのか。 イタチも木の下へ降りる。見事な夜桜に魅せられているようにうっとりと目を細める。風が花弁を散らし、花弁が踊るように地へと着く。 「綺麗ですね」 ぽつりと呟いたイタチの言葉にマダラはすぐに返すことが出来なかった。 「お前も、」 その後を待つように首を傾げるイタチを茫然と見るしか出来ない。マダラの中で何かがぐるぐると速く駆け巡る。それは一種の焦燥のようであった。 喉から言葉を絞り出そうにも出てこない。からからに渇いた喉にはもはや大量の水さえも潤いにはならない。 「そう思うか」 やっと絞り出せたのは伝えたい言葉から掛け離れたもの。 それでもイタチはいつものような笑顔でコクリと首を縦に振った。本当は知っている筈だ。自分が何を言いたいのかを。 「よく仇桜でこれたものです」 懐かしむ言葉に胸がずきずきと痛む。一つ一つの言葉が深く奥底に刻まれていくような、鈍く痛い感覚。 仇桜のようにいつ消えてもおかしくない美しくも儚い存在でありながらもこうして生きている理由はただ一つしかない。 「お前が優秀だったからだ」 しかし届く言葉は本音からは程遠い。さっきと同様にイタチは肯定して笑った。 馬鹿だな。互いに思いさえも伝えられないなんて。苛立ちを表すように拳を握り、からからに渇いた喉から喉を痛めても構わない思いで言葉を吐き出そうとすれば、口元に細く長い指を宛がわれる。 「昔から優秀と言われ続けてましたから」 だからここまできたんですね、と納得した振りをする。 自分自身のことだ。やはり知っていたのだ。そして自分が何を言わんとしているのかも。 最初から互いに理解していたのだ。言わなくても判るということまで全て。 自嘲気味に笑えばイタチも微笑む。 イタチは地に落ちた花弁を一枚手に取り、生き物を扱うようにそっと優しくマダラの手の平に乗せた。地に塗れ、少し薄汚れているがそこから覗かせる桃色がまた一段と美しい。泥の中に咲く蓮のように気高く可憐であった。 「こうして桜は散るけれど、散る際に誰かを喜ばせることが出来れば本望でしょう」 イタチはふわりと笑う。その笑みだけでなく、存在自体も消えてしまうのではないかと思うくらいに小さく見えた。事実そうなる日は近い。 「桜は何も話さない。咲く間も散り際も」 「散って枯れた、その事実だけでいいんですよ」 最早桜のことを話しているのではないことは互いに気付いている。それでもイタチは気付いていない。桜を愛でていた者が、枯れた桜を見てどう思うかを。 ゆっくりと立ち上がり伸びをする。 「今日は花見酒にするか」 「…突然ですね」 「何を言う、ずっと考えていたぞ」 ニィっと口元を歪めていつものように笑う。いつもならその笑みに嫌な顔をするも、今回ばかりはイタチも苦笑した。いつもと違う反応に哀しさを覚えながらもすぐに杯に酒を注ぎ始めた。 「桜は枯れるまで愛でるのが一番だ」 祝!3000Hitです。 秋なのに春かよっ!! 冒頭は親鸞上人のお言葉です。 口には出さないけど実はすっごくマダラさんは辛かったんじゃないか!?な妄想の産物です。 それでも兄さんには全部伝わってるんだよって最後の最後に互いに分かり合えた…という感動的な場面書きたかったんですが、泣けないですね。 文章力欲しいなぁ。 2011/9/23 ←top |