07 サスケは修業のために森に行った。サクラからそう聞かされた時にそれでいいと思ったなどとは誰にも言える筈がなかった。 他の患者の看病に呼ばれたサクラがここを去って数分経った。当然サクラにも言っていない。 コンコン、とノックの音が部屋に響く。静まり返った部屋によく響き、イタチが静かに入室を促す。開けた扉から見えた姿にイタチが微笑みかけた。 「ナルト君か」 「…兄ちゃんさっきは悪かったってばよ」 扉を閉めてイタチのいる寝台に近づく。イタチも上半身をだけを起こした。 「だ、大丈夫なのか?」 「あぁ、これくらい何ともない」 それより、とイタチが言葉を紡ぐより先に、ナルトがイタチに笑いかけた。 「サスケのところには行ってねぇよ」 ナルトが先に切り出した。話はよく理解しているのだ。サクラに諌められたためもなのかもしれない。 「…そうか」 「…でもさ、兄ちゃん」 話しながらイタチの寝台まで歩み寄る。優しくも悲しみのこもった口調から大人っぽさを感じながらナルトの話に耳を傾ける。 「やっぱり…オレは嫌だ」 本音を素直に伝えられるまっすぐなナルトの性格はサスケや自分にもないものだ。この正直さは自分やサスケを心から心配してのことだ。 「優しいな、ナルト君は」 「ヘヘ、オレってば人の痛みは知ってるからな」 今はこうして皆から認められたものの、昔の辛さや苦しみはしっかりと心に焼きついている筈だ。 本当の意味でナルトは強い子だ。それを笑顔から感じざるをえない。 「だからここまでこれたんだ」 独り言のように呟き、ナルトはイタチを肩にかついだ。自分よりも年上なのに存外イタチの体は軽かった。元からなのか、病のせいか、ナルトには判断出来ない。 「ナルト君?なにを…」 言葉が終わらないうちに、ナルトはイタチを抱えて窓から出た。 まだ一日も経ってはいないが、何だか外に出るのは久しぶりな気がした。ナルトはイタチを茶屋の椅子に下ろし、自分も隣に座った。 「兄ちゃんに団子奢ってやるってばよ」 いきなり何かと思えば。 イタチが目を丸くしているうちに、既にナルトは注文を済ませていた。 すぐに運ばれてきた団子をイタチに渡しながらナルトは言った。 「団子食べながらでもいいから聞いてほしいんだ」 かなり真剣な内容なのだろう。 病院にいるサクラや上の階にいるサスケに聞かれないようにという配慮までしたのだから。 イタチもナルトをじっと見つめた。それを了承と受け取り、ナルトは話しだした。 「前回の任務のこと…兄ちゃんはサスケから何かきいてるか?」 前回の任務というと、サスケがナルトやサクラたちにかなりせがまれて、渋々行くことになった任務だ。その経過ならイタチもよく知っている。 そしてそれは里に帰ってきて初めてサスケが出た任務でもあった。 「いや…あまり聞いてない」 だが帰ってきたサスケは何も言わなかった。ただ「別に変わりはない」とだけしか言わなかった。 本人に問いただす程でもなかったので、イタチもそれ以上尋ねることはしなかった。 「何かあったのか?」 「まあ…ちょっと……」 はぐらかすような返事を不審に思っていれば、ナルトが意を決したように口を開いた。 「サスケが…任務放棄したんだ」 一瞬思考が停止した。サスケの口調からしても、そんなことはなかったように思う。 何よりサスケが黙っていたことがとても信じられなかった。しかし今思い返してみれば帰ってくるのが早かったようにも思う。 「まさか…サスケが……」 「サスケの奴、途中で家に帰るって言いだしてよ」 全く困ったもんだよな、とカラカラ陽気に笑うナルトの肩を掴んでイタチは焦りながら問う。 「一体、何があったんだ?」 「ほんとはサスケに黙ってろって言われたんだけどな…アイツがあんな状態だし、兄ちゃんに話すってばよ」 この日七班の任務はいつもと変わらずDランク。カカシが計らってのことだというのはすぐに察しがついた。 「なんだか…本当に昔のようね」 隣のサクラが懐かしさを込めた笑顔を向けた。サスケが里を抜けたあの日から、サスケのことでずっと悲しみにくれていた。それでも自分と一緒に何度もサスケを連れ戻そうと必死になったし、彼女自身辛い選択もしたときもあった。 泣きそうな笑顔を見てサクラがサスケを想う心が見えた気がした。 「あぁ…ほんとにな」 「何がだ」 背後には既にサスケが立っていた。ツンとクールに立つ姿は昔と全く変わりがない。 ナルトも心が穏やかになるのを感じた。しかしそれを表に出すことはない。あくまでも昔と同じように接する。 「お前ってば普通に来いよ!いきなりだとビックリするだろうが!」 「気配に気付かないお前が悪い」 「んだとぉー!?」 「…ハイハイ、そこまでね」 二人の真ん中に入るようにカカシが止める。本当相変わらずと呆れるカカシとクスクス笑うサクラ。そんな懐かしい雰囲気をサスケはどう思っているのだろうか。 「じゃあ今日の任務内容の説明するぞ」 一瞬にしてサスケの雰囲気が一変する。そう、昔と違うのはサスケが里に対する思いだ。かといってサスケの気持ちを否定することも出来ない。 黙って俯く以外に何も術はなかった。 「ランクはDだ」 「えぇーー!?」 驚きと嬉しさが交じる声をサクラとあげる。懐かしい雰囲気を取り戻すこともあるし、サスケを任務に慣らせようというカカシの魂胆であった。 「内容は人探し」 かなり簡単すぎる…。しかしサスケのためと思えば我慢できた。しかし自分が影分身で探したら終わりではないか。 依頼人は里内である。 里の門で待っていると、少年がやってきた。依頼人は少年か…本当に簡単なものだ。親とはぐれたのだろう。 「父を探してほしい」 やはりそうだ。 ご丁寧に写真まで差し出してきた。しかし自分やサクラがやってはならないではないか。チームワークとして動くだけに控えておくことを決め、サスケに写真を渡した。 もう少しDでもネコ捕獲とかの方がまだ緊張はあったのに。 ため息をついた時にいきなり依頼人の少年が懐から短刀を取り出し、大声で怒声をあげた。 「アイツは…!兄さんを殺したんだっ…!アイツだけは許せない!絶対に…復讐してやるんだっ!!」 その場にピンと糸が張り詰めたように雰囲気が固まった。カカシもこれは予想外だったのだろう。理由までは知らされていなかったに違いない。 先程の雰囲気は幻であったかのようになる一同。少年は険しい顔をしたまま口を開いた。 「探してくれるんじゃないのかよ」 チラリと横目でサスケをみる。 辛いのか唇を噛み締めている。無理もない話だ、更に少年は12、3くらいとサスケが里を抜けた年と同じくらいだ。 先生のバカ…と目を伏せたつかの間、バシッと音が響いたかと思うと少年が地に倒れていた。 「何すんだよ!」 「兄が大事だって気持ちは判る。だが父親もお前にとっては大切な筈だ。…無くしかけてた記憶を思い返すことだな」 そう冷たく少年に告げたサスケはその場を去る。すぐに我に返ってサスケを追いかけた。 サスケは門から少し離れた川のあたりに居た。 「…悪い、ナルト」 口調からして本当に任務やるつもりでいたらしい。そんなサスケにナルトの方が申し訳なくなってくる。出来るだけいつもの明るさを繕った。 「別に気にすんなってばよ!しょうがねぇだろ!今回は先生が悪かったんだから」 サスケは川を見つめている。 ナルトも隣の柵に寄り掛かる。川に背を向けてはいるが。 「…ナルト、オレはこうして里に帰ってきたことを素直に喜んでる…木ノ葉は嫌いだけどな」 相槌を入れる間もなくサスケは言葉を紡いでいく。 「だがイタチとこうして里に戻って来れた。オレと違ってイタチは里が好きだからな…イタチと居られる里なら、オレも好きになれるかもしれねぇ」 本当にサスケは里を受け入れようとしている。どれだけ辛くても、自分の大切な兄が愛する里を享受しようとする姿に胸を打たれた。 次→ 次は回想多めになりますので、兄さんはあまり出てこないです。 ナルトが話しているので、主にナルトに照明当ててやっていきます。 2011/9/2 というナルトのお話でした。 次回は聞き終わったところから始まります。 2011/9/7 ←top |