イタチ里抜けから半年。
マダラと一緒に暁行く前。



「花氷にしてもいいかもな」

夏椿を見つめるイタチにマダラが呟いた。それを聞いたイタチは花が咲いたようにクスリと笑った。

「何が可笑しいんだよ」

「いえ…ただ貴方も風流なことが言えるんだなって」

「お前な……」

初夏は過ぎ、猛暑が続く。里を抜けてから随分と日が経ち共に行動を続けるのが多くなったためか、イタチも幾分表情を出すようになった。

「昼よりはマシじゃないですか」

「…まあ、そうだがな」

イタチの行動を目で追う。
イタチは夏椿を机にそっと置いて、先程買った風鈴を手にして、縁側に取り付ける。
…風流、か。

思いついたらすぐに行動。
イタチはいつもそれに振り回されてきた。そして今回もそうだった。
いきなり腕を引っ張られる。風鈴は支えを失って、下に破片となって落ちた。それに驚く暇もなく時空間で連れてこられたのは海だった。
急な展開にいつもながら頭がついてこない。

「な…んで」

ボソリと呟くが隣の師はかなり満足げに微笑んでいる。

「夏といえば海だろう?ほら入れよ」

「………キレていいですか」

突拍子な行動、師の度が過ぎる戯れ、時空間により起こる少々の頭痛は毎度毎度のこと。イタチもうんざりしているものの、叱ってもどうしようもないものであることも既に理解している。
今イタチが最も腹を立てているのは風鈴のことである。それは買ってきたばかりの風鈴で、ガラスがかなり薄く高級なものであった。それを割られた上にこれである。苛立つのも仕方がない。

だがマダラは入るよう勧めるだけ。しまいにはイタチを波近くまで引っ張っていく始末。怒りを押さえ込んでイタチは夕焼けで赤く染まった海に入った。正確には立ったのだが。

「これでいいですか」

「なんだ、折角連れてきたんだから楽しめ」

喉奥を震わせ楽しそうに笑う。
いつもの戯れが始まったことを悟り余計に溜息をつく。

「入れ。別に水面歩行などの成果を見たい訳じゃない」

しかしイタチは動かない。イタチも今更そんな初歩的な術を披露したいがためにやっているわけじゃない。当然ながらマダラも知っている。

トンと地に降り立つような音がしてイタチは振り返る。さっきまで砂浜にいたアイツの姿を捉えたとき、いきなり耳元で囁かれた。

「相変わらず敏感な奴だな」

目を大きく開いたときには既に遅く。胸のあたりを押されて、海水が全身にかかる。

「一瞬の隙で水浸しだな」

カラカラ笑う師を本当に殺してやりたいと本気で思った。



「まだ怒ってんのか」

波の飛沫がかからない大岩の上で休む。イタチは濡れ衣を纏ったまま無言でいる。足袋と下駄を岩に置いて髪を解いた。

「…なあ、おい」

マダラの声に返答しないつもりなのだろう。イタチは濡れた髪を乾かそうと無造作に髪を掻いた。
なかなか乾かないことにイライラしていると、頭に柔らかい布が被さってきた。

「………」

そのまま黙っているとその布が動いた。布ごしに感じる大きな手。それが誰のものであるかは考えるまでもない。

そういえば…と昔の記憶をたぐる。が、すぐに辛くなり顔を伏せた。

「どうした?」

頭が動いたからだろう。ふいにマダラが問いかけてきた。無論返答なんてするわけもなく、イタチは声の降る方へ体を傾けた。
マダラも手は動かしてこない。ただ自分の肩を抱いたまま黙っている。

気持ちを悟っているのか、そうでないのか。だが心地好いのも確かなこと。

(質が悪い人だ)

ただの身勝手な人ならばこんなにも辛くはならないだろう。伝えたい思いを抑えるように、イタチは唇を噛みしめた。




















ぴよおう様からの企画は「マダイタ」のみでしたので、私のやりたい放題にさせていただくことにしました!
そんな訳で「夏」と題して小説は進ませていただきます。
ぴよおう様ありがとうございます!

花氷というのは花を氷らせてオブジェのようにしたものです。
私の家でも一度やったことがあります。(にっき2にて画像はあります)

マダイタになると兄さん視点で書きたくなるし、サスイタだとサスケ視点で書きたくなる不思議。

2011/8/31

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