夏休み

「今日、近くの神社で祭があるんだ」

詳細の紙を自分の後にいるサスケに渡しながら言う。その紙を受け取りながら気がつく。

「…もしかしてオレと行くために?」

だから仕事を休みにしたのかと思うと、嬉しさでいっぱいになる。今日は自分が来ると知っていて空けておいてくれたのだから。

「いや、祭はオレも行きたかったから元々空けてたんだ。そこに丁度お前の学校が夏休みに入るって聞いたからな」

「…なんだ、偶然かよ」

少し拗ねたような言い方をするも、心の中ではかなり気落ちしていた。困った顔で笑いながらイタチはサスケに浴衣を渡す。

「これに着替えてこい。久しぶりだろ」

オレも着替えてくるから、と言い残し部屋を出て行った。
サスケは手早く浴衣に着替えるとイタチの部屋の方へと足を運んだ。
先のリビングの雰囲気とは全く違う通路に変な緊張を覚える。
一枚だけの襖に手を掛けて静かにゆっくりと開け、中を覗いた。

そこにはイタチが居た。

先程の紳士的な雰囲気とは打って変わり、艶美さを纏う。こうも浴衣姿になると変わるのか、とサスケは息を呑んだ。
髪を解き、漆黒の髪が背に垂れる。女のように流れる髪を上げて簪を挿す後ろ姿にすっかり見惚れる。久しぶりに会った兄は格好良くもあり美しくもあった。

「サスケか。用意できたのか?」

こちらを振り向きもせずにイタチが言う。イタチが見つめる鏡には、サスケの姿はしっかりと映し出されている。
サスケが慌てて襖を開けた。

「あぁ、まあな」

そう答えた時には既にイタチも髪を整えたらしかった。サスケの方に向き直りニコリと微笑んだ。

「なら…行くか」

イタチの髪に挿さる見覚えのある簪を見つめながら、サスケが短く答えた。

「あぁ、そうだな」



イタチのマンションから大きな神社はそう遠くはなかった。
その神社は祭神を祀る意味も込めての祭をしているため、かなり地域では知られていた。

「はぐれないようにな」

そう言ってイタチが手を差し出すが、サスケは浴衣の袖で手を隠した。

「…もうガキじゃねぇよ」

それもそうか、と笑うイタチはどこか寂しげであったが、サスケは繋ぐことなんか出来ない。
そんなことをしてしまえば、自分がまともにここに居られる自信がなかった。
好きだからこそ、出来る筈がなかった。

しっかりと自覚したのは兄が家を出た時の夜だった。
昔から一緒に居て、それが当たり前だと思っていた。そうやって過ごしてきたから苦しかった。
会いたい。いつ会えるのか。
そればかりを考えて過ごしてきた気がする。

一度、会いたくなって家を勝手に飛び出したこともあった。しかし、場所が分かる訳もなく、結局帰って叱責されたのだ。恐らくこの話はイタチに母が話している筈だ。しかし、イタチはそれに関して何も言わない。

「はぁ……」

昔から好きだった、なんて告白も出来る訳もなく。したとしてもイタチのことだ、兄弟としてと受け止められるのが関の山だ。
この思いをどうすることも出来ないまま、ずっと心にぐるぐる留まっている。
もうどう受け止められたっていい。いい加減このモヤモヤを吐き出してしまおう。
そう決意した時にはたと気がつく。

「イタチ…?」

辺りを見回すが姿は見えない。
どこかの屋台に行くのなら自分を置いてきぼりにするようなことをイタチがする筈がない。
第一、自分に告げないで行くことなどないではないか。

「くそっ!」

はぐれないようにと差し出したあの手を握らなかったことを今更ながら悔やんだ。





















ささっとさくっと作りました。
こういったサスケの心情書くのは初めてでしたが、とても楽しかったです。
というかホストが話にもなってない話ですいません。夏休みといえばやっぱり浴衣だな!

2011/8/22

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