夏休み

イタチの車は冷房が効いていて、サスケが入ったときには既に車内は涼しかった。
隣で悠々と運転をするイタチをじっと隣で見る。長い髪の間から見える白い肌。瞳を縁取る長い睫が時々上下に揺れる。しっかりとした細い腕から伸びるしなやかな指は、ハンドルを慣れた手つきで握る。そんな当たり前の動作にでさえ、サスケは思わず動揺する。

「どうした?寒いか?」

イタチが冷房のスイッチに手をかけようとする。サスケは慌てて首を振った。

「寒くねぇよ。寧ろ暑いくらいだからな」

「それもそうか。学校があったからな」

イタチは冷房のスイッチに伸ばしかけた手を元のハンドルへと戻した。暑いのは学校のせいだけじゃないことを、隣で運転しているイタチは知る由もない。



「着いたぞ」

車が完全に止まった後にドアを開ける。目の前にあるマンションは、どこにでもありそうないたってシンプルな建物である。
が、そんなマンションもイタチの部屋に来ればガラリと一変する。

「すげぇ……」

高そうなふかふかのソファにテーブルクロスのかかった机。8階という高い階に位置する部屋だから窓から見える景色も絶景だ。
時々来るその度に豪華になる部屋に、毎回驚くのが常である。

「ゆっくりしていいからな」

羽毛の絨毯にそっと鞄を置いて、ソファに座る。沈むソファの心地良さに驚いていると、イタチがサスケに飲み物を出す。

「飲み物はこれでいいか?」

渡されたトマトジュースのグラスは持ち上げも軽く、上等なもの。

「飲み物はそれでいいけどこのグラスが…」

慣れないグラスに不安になりながらも口をつける。
イタチはそんなサスケの様子にクスクスと笑う。

「別に落としたっていいぞ。絨毯が濡れるだけだし」

その絨毯が高いんだろ!と、かなり突っ込みたくなる気持ちをぐっと抑え兄を見た。
ソファに足を組み、悠々と座るイタチの姿。片手に紅色のワインを持ち、こちらを見て微笑んでいる。その華麗さに心が惹かれる。
しかしサスケの心は痛かった。

(仕事でもこうなのか…)

こうして夜に店を訪れてくる女の相手をすると思うと、女どもに対して腹が立つ。水商売であるにも関わらず、毎月の収入は相変わらずなのは流石イタチだ。
だがやはり。

「…気にくわねぇ」

なのだ。女の相手をしているということに。サスケは誰にも兄をあげる気などない。例えそれが兄が決めた人であっても。
そういう気概でいる。

「全くサスケは……」

仕方のない奴だと言いながら苦笑いを浮かべる。イタチ自身、サスケの気持ちを理解している。だが仕事をやめるわけにはいかない。

「別に話し相手になるだけだ」

「それで終わる筈ないだろ」

イタチが好意を持たなくても、相手の何人かは好意があるに決まっている。サスケはイタチを抱きしめた。

「今日は……行かないよな?」

寂しそうに甘える声に昔のサスケの面影が窺える。昔、学校に行くときもこんなふうに出かける自分を止めていた。しかし夏休みに入ったサスケとは違い、学校がいつものようにあるイタチは行かなければいけなくて。
よく止めるサスケを宥めるために額を小突いてやっていたのだ。
仕方なくイタチはゆっくりとサスケの髪を撫でながら、ニコリと笑う。

「ああ、今日は行かないさ」

昔の額を小突いて謝罪の言葉を述べるようなことをしないイタチに安堵の表情を浮かべ、トマトジュースを飲み干した。
しかしどことなく寂しい気は心の隅で踞り、心に留まっていた。





















兄さんをホストにしたのは昔ラジオでNARUTOキャラホストで兄さんが1位だったからです。
やってみたかったホスト兄さんを書けたことに自己満足しています。自己満足!

2011/8/21

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