Story | ナノ
01-06
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 ホームルームが始まる。
出席を取り、連絡を伝えられる。

「みんな、最近野犬が夜中、街中に徘徊してるらしいからな…。
 部活帰り、塾帰りはなるべく人通りが多いところを通るんだぞ。」

と、担任が伝えている中、楓花はぼう、と窓に広がる冬空を眺めていた。

「……、」

 かなり現実味がある夢のこと。
ずっと考えている。
あの少年…、綺麗な漆黒の髪に翡翠の様に浅く透る瞳。
その浅さがなんだかとても虚ろな雰囲気であった。
考えながら、自然と筆が滑る。

 人物デッサン、楓花はかなり得意とするもの。
サラサラと鉛筆が、クロッキー帳の白に人物を作り上げている。

端正な顔立ちに、虚ろな鋭く細められた瞳。
流れるような黒髪…。

実際こんな子が居たならかなり目立つのだろうと不意に思い、手を止めた。

「……ふう、」

描けた。
絵の全体図を眺め、息をつく。

 肩に烏を乗せた少年の絵。
我ながら上手に出来た方かな、と小さく笑みを浮かべクロッキー帳を閉じた。
と、同時に声が。

「お、じゃあ…結月。」

「……んぁ…?」

予想だにしない声かけに、楓花の返答が、一般の年頃女子が決して出さないだろうマヌケな声になった。
教壇には担任教師はもういない。

「この問題、行けるだろ…?」

担任ではない教師が当然のように尋ねる。

 いつの間に授業になっていたのか…
気が付けば一限の数学の授業中。

「……ぇ、あ…あと、その…」
「なんだ、わからないのか?」

こくり、と躊躇いがちに頷いた。
余りにも恥ずかしくて顔を上げられない。

「そうか。ちゃんと復習しておくんだぞ、」
「……はい、」

こくこくと頷く。
じゃあ…、と教師の視線が離れると慌てて数学の教科書を取り出し、適当なページを開いた。

「じゃあ…、えと、紗暮(スズクレ)。
 お前がこれを解け。」

「……、…はい…」

 すずくれ…?
聞いたことない名前。
そんな生徒いたか、と考え再び教壇に顔を持ち上げると一瞬胸が激しく打たれた。

「………ッ、」

 あの人…。
昨日の夢で見た…?

クロッキー帳に描いた顔とそのままの顔がそこにあった。

少し気怠そうに壇上に上がりチョークを持っている少年。
昨日見た彼そのままだったのだ。

「………、」

しばらく驚きに見開いたままの瞳で彼を見る。
間違いない。昨日の彼だ。

「……」

でも瞳は緑色ではない。
どう見ても黒。

でも間違う訳がない。

「……ねぇ、」
ヒソ、と前の席の依鈴に声をかける。
依鈴は少し身体を後ろに持って行き、楓花の声に耳を傾けてくれた。

「…あの子…」
「ん…?紗暮くんのこと?」
「う、うん。
 あんな子…居たっけ…?」
「ぶっ、アンタ言うこと酷い…。」
小さく苦笑した依鈴は仕方ない、と溜息をつき、
「ま、楓花は紗暮くんが転校して来た時、体調崩してたからね…」
「あ、私が休んだ日に…?」

そうそう、と依鈴は頷いて体勢を戻した。

 楓花が体調不良で欠席したのは四日程前。
その時に転校してきたらしい、紗暮と言う少年は楓花の一番の死界となる席に座っていた。
楓花の席は窓際で教壇から見て最奥にある。対して、彼の席は入口付近の教壇一番手前の席だ。
気付かなかったのも仕方ないと言えば仕方ない。

「……、」

 じ、と彼の後ろ姿を見る。
回答を終えたらしく席に戻る紗暮。

「おー、正解。」

教師の満足そうな声を傍らに聞き、教室の角の席をじっと見つめていた。

「………、」

 その視線に気付いたのか、彼はこちらを見ると迷惑そうに眉をひそめ、席についた。

「…」

ふぅ、と息をつく。

 唯の夢だし…。
彼は関係ないのだと、自分に言い聞かせ、ごまかすように教科書のページをめくった。




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