Story | ナノ
01-03
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「……ごめんな、お前等はなんも悪くないのに…」

 ぽつりと呟かれた慈悲の言葉。
それを彩るは夜の闇色と鮮血の紅、生物の悲鳴。

楓花の目にはその光景がゆっくりと見えた。
ゆっくり、ゆっくり…

スローモーションの様な世界で少年が舞うように獣に切り掛かる。

 血が舞う。

紅く、花びらの様に。

 ふと見せる彼の表情に視線が奪われた。
殺気の様に瞳が鋭いが、どこかその表情は寂しげ。

゙愁いでいる゙…

そんな言葉が不意に浮かんだ。
でも間違えていない気がする…。

 そんな浅い思考世界から解放されるとだんだんなにか…恐怖を感じた…。

「………、」

ふ、と息をつく少年。
どうやら終わった様。

 ゆっくりとした世界の中で実際、どのくらいの時間がかかったのだろうか…?
もしかしたら数分…数十秒と言う短い時間かもしれない。

唯その空間の中、楓花にとって長く焼き付けられる事になった残酷風景。

まるで悲しい儀式を見ているかの様だった。
だけど次第にそれに対しての恐怖が生まれる。

 ドクン…、ドクン…、

深く脈打つ体内に急かされるようにソレは広がった。

「……ぁ、…あ…、」

 情けない言葉が漏れた。
恐怖に手が震え、唇が震える。

決して彼に恐怖している訳ではない。
今までの貯まりに貯まった恐怖が今になって沸き上がっているのだ。

助かった、と実感した時には取り返しの付かないほど震え、心臓が異常に早く脈打つ。

かたかたと震え手を止めないと…。
しかし抑える手さえ震えが止まらない。

こんなに自分の意志が聞かなくなって、震えが止まらない…なんて事、一度だってない筈。

 どうしたら…、どうしたら……、

「………、平気か……?」

 暫く楓花の様子を伺っていた少年は心配した風でもなく、唯義務的に尋ねてきた。

しかし、楓花にとってそれは更に動揺を加速させるものになって…
彼の質問に答える事もなく、身体から力がなくなった。

「………、」

 呆気。
そんな風に目を丸くした少年、一皐は倒れてしまった楓花に歩み寄る。

不器用で少し乱暴に上半身を持ち上げると軽く揺さぶりを加えた。

しかし、全くの無反応。
まるて死人の様。

『…あれれ?気絶しちゃったの?』

今まで何処に隠れていたのか…
ひょっこりと姿を現したシェルシェに一皐は軽く舌打ちをした。

「……五月蝿い、」

 低い声で放たれた言葉は不幸なことにシェルシェには届いていない。

『弱ッ、人間の雌ってこんなに脆い生き物なんだね…?』

 シェルシェの言葉を軽く無視して楓花の顔にかかる前髪を退けてやる。
しかし、自分の手では彼女を血で汚してしまう事に気づき、それをやめた。

「…シェル、こいつが散らかしたものかき集めて来い。」

『え〜…』

ぎっ、と睨まれる。
それに思わず身が跳ね、パタパタと飛んで行った。

「…あれ、コイツ……」

 良く見てみれば知っている顔…。
何処でだったか…
つい最近、かなりの頻度で見ている気が…

「……、」

他人に全くと言って良い程無関心な一皐。
そんな彼が覚えているのだったら、嫌でも顔を合わせる場所。

しかし考えても全く出てくる様子はない。
仕方なさそうに溜息をつき、今までの思考を飛ばした。

「……と、軽っ…」

 このまま此処に放置はマズイと考えた一皐は楓花を背負う。
思った以上の軽さに少しバランスを崩し、体勢を立て直して息をついた。

 何を食って生活してるんだろうか…
それとも何も食ってないのか…?
等の素朴な疑問を頭で吐き、シェルシェの帰りを待った。


『お待たせー!!』

 調度、一皐の脳内疑問が『女はみんな軽いのか、』と言う完結を迎えた頃にシェルシェは重そうなバッグを首からぶら下げフラフラとやって来た。





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