Story | ナノ
01-02
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「じゃあ、あなたはなんなの?!」
『僕?僕は魔烏のシェルシェだよ、』
「ま、から……?」
『そこにいる辺鄙な下級生物とは全く違う、確立した種族。
それが僕』
ふふん、と得意げに話す鳥。
厭、彼自身が言うには烏らしいので、烏で。
『低脳で血を啜ることしかできない。
感情もあるかどうか危うい。
そんなこいつらとは一緒にしてほしくない、』
ちょっと胸を張らして行っている雰囲気はまるで幼いこども。
でも、この烏の登場によって怯んだ犬達は、今の台詞を聞いて心外だ、と訴えるように唸り、睨んできた。
「ねぇ……、」
恐る恐るシェルシェに話し掛ける。
だが、まだ彼は気づいていないようで口々に何か毒を吐く。
『グルル……ガウッ!!』
「ひっ!!」
『…ピッ、!!!』
楓花はその声に身を縮め、シェルシェも同じく身を震わした。
それを楓花はしっかりと見ていて、
「貴方が威嚇したんじゃない!!」
と自分らしくもない声でシェルシェを責め立てた。
それにシェルシェはすかさず反論。
「こんな事で怒る無能とは思わなかったんだよ!」
と見事に皮肉を織り交ぜた。
『ガウガウッ、バウッ!!』
吠え、飛び掛かってくる足音。
その音で完璧に絶望を感じた。
駄目だ。絶対に終わりだ…
咄嗟に腕で頭を覆う。
ぎゅっと瞳を閉じて。
次に来るだろう衝撃を恐怖で待ち、暫くして目を開ける。
恐る恐ると…
だけど痛くない。
痛くなくて不思議に思い前方を見ると人影が。
「………ッ、」
「……」
余りの光景に息を飲んだ。
だって、自分の目の前に同い年くらいの少年が立ちはだかっていたのだから。
「……チッ、」
彼の舌打ちが聞こえ、それと同時にぽたぽたと地面に何かが落ちる音がした。
視線が揺らいで見えた先には真っ赤な液体。
よく見てみると彼は飛び掛かって来たであろう獣に腕を食われていた。
しかし、それを押さえている状態で…。
「…ぁ、…あ…ぅ…」
理解が追いつくと彼への心配よりも恐怖が先行した。
どんどん広がっていく血溜まりに視線を落とし、身体が震える。
「……なぁ、…シェルシェ…」
痛み故か、怒り故か…震えた声で彼は烏のシェルシェを呼んだ。
どうやら彼が飼っている烏の様だ。
『…は、はひッ!!』
びくん、と身体を震わし恐る恐る彼の肩に着地するシェルシェ。
そんな彼を睨みつけ、
「俺、さっき何つった…?」
『う〜…えっとぉ…』
「あの女の保護と、俺が来るまでの時間稼ぎを、と言ってあった筈だよなぁ…?」
どうやら怒りで震えてるらしい彼の声にシェルシェはビクビクしつつ、頭をコクコクと動かした。
「…お前が威嚇するから俺、腕食われてんだけど…?
このウスノロ…、」
『ご、ごめんよ〜ぉ、一皐ぁ…』
心配そうに少年、一皐と呼ばれた子の肩でそわそわする烏。
暫くぼう、とその光景を見ていると急に、乱暴に呼び掛けられた。
「おい、」
「…へ…?ぁ、あ…うん…?」
慌てて返すと彼はちょっと溜息をついた。
「…怪我はないか…?」
「え……?」
まさかの気遣いの言葉に一瞬訳が分からなくなる。
言葉を間違えてる、と思った。
「いや、貴方が怪我してるよね…ッ?」
「ああ…。けど、平気だし…。」
確かに痛そうな声ではない。けど…
「でも、腕…」
「ちょっと黙れ。」
黙れ、と言われ黙ったが、そうだ。
今まさに腕を食われてる最中の人間が呑気にお話なんてしてる場合ではない。
やっぱり、痛いんだ…
次第に込み上げた心配をよそに彼は笑みを浮かべ、
「目、伏せてな…」
と言った。
意味が分からなく、そのままでいたら重たい音。
獣の巨体が落ちた音だった。
彼の手元を見ると細身のナイフが握られていた。
真っ赤に彩れたナイフ…。
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