Story | ナノ
01-01
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 冬の寒風が頬を掠める。
街のビル群による風の流れで舞い上がった前髪が鬱陶しく感じ溜息をついて払う。

 今日も明日も…
自分の否の感情を誰も受け止めることなく強要される。
したくも無いことを毎日毎日こなす日々。
辛い。
何度も泣いたし何度も傷付いた。
けど、それは終わらなくて…

 夜闇の様な黒髪を揺らし、少年はとある雑居ビルの屋上の不安定な足場に立ち、都会の景色を見つめていた。
その瞳は何処か虚ろ。

 ふわ、と風が強くなる。

「………ッ、」

すると途端に彼の瞳は光りを捕らえた。
刹那、彼の身体は宙に。

「…導け、標べ烏【シェルシェ】…!!」





掲罵げられし烏使い【ソルシエ】−−




……

…………



「……はぁ、は…、…

 確か、今は画塾の帰りだった筈。
その筈だけど…

「な、なんなのッ…?!…ぅわぁ!!」

急に何かに襲われ、追われている。

 後ろに気を使い、振り向くがこういう時にに限って地面に足を取られた。

「ったー〜…」

盛大に両膝を擦り剥き泣きたくて仕方が無い。
けど、そんな余裕も無いことぐらい知っていた。

 …タ、タッ…――

そう遠くない所から爪の擦れたような足音が聞こえた。
そう。…例えるなら犬みたいな足音。

「ワンちゃんは好きだよ…?だけどあれって違うよねッ…?」

転んだ時にばらまかれた画材道具を拾う余裕も無い。
取り合えず鞄を乱暴に引き寄せて立ち上がった。

「…っ、…誰か…ッ」

 こんな都会の繁華街で、しかも人気が少ない道で、呼んだって誰も助けてくれる訳が無い。
けどこんな所で死ぬわけにはいかない。

「は、…っ…、…はぁ、」

必死に逃げれば逃げるほど追って来る相手。
でも、だからと言って振り返って目を合わせたところで喉元噛みちぎられてしまうんだろう。
その図の自分を思い浮かべると背筋が粟立った。

「………、っ…あッ!」

 行き止まり。
何処かで最悪の事態として考えていたが現実にこう来られてしまうともう絶望しかない。

『グルルル…』

 獲物を威嚇するような犬の声を背中で聞き、身が凍った。

 直ぐ後ろに居るんだ…。

思考が回ったときにやっと振り返ると思った通り、犬の様な生き物が自分を逃がさないように取り巻いていた。
しかも数頭。

「…な、なに…どうする気…?」

悪あがきに声を出すも震えたような頼りない声音の言葉だった。

勿体つける様にこちらに視線を向けたままの相手に対して画材鞄を投げつけてやる。

「あっち行ってよ、もう!!」

勢い良く投げつけられた鞄に相手は一瞬怯んだが、また威嚇の声を上げた。

「あぁ…、」

 まずいかも…、と胸中で零す。
もう、本当に助かりそうもない。
そんな事を思っていると建物の隙間から強い風が吹き付けた。

「…やッ、…」

髪とスカートを咄嗟に押さえた為、一瞬見逃した。
けど、嘘じゃない。

風を起こし、その中から緑…厭、翡翠色の何かが出てきたのは…。

『…まったく…知識が無いよね、知識が…』

小言の様に零された言葉を聞き、はっとして視線をはっきりと前に向ける。

「………トリ…?」

『人を襲うしか脳が無いの?君達は…』

ふわりと風から現れたように見えたその翡翠色の鳥はこちらと犬達の間に入って飛んでいる。
器用にその場に留まって飛んでいる鳥を暫くぼうっと見ていたが、
「あ、……た、助けてッ!!」

『えぇ…?』

嫌そうに言い、こちらを見た鳥は困ったように首うなだらせて
『ねぇ、僕がこんな凶暴そうな生き物に敵うと本気で思う?』

馬鹿なんじゃないの?などと呆れたように言われ、カチンと来たが確かに敵う筈もないか。



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