Story | ナノ
03-03
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「……、」

 こくん、と唾を飲み込む。
同時に止まらない嗚咽を飲み込もうとするが叶わなくて、頼りなく声が漏れた。

「…君にこんな辛いことさせたくなかったから。」
耳元で男の子は言った。
やった事は酷くえぐいが彼の声は酷く穏やか。
恐怖心が次第になくなっていくのが分かる。
…後、脚の違和感。

「……あれ…、」

 そう言えば脚の痛みがないような…。
厭、さっきまでも感覚がなくなって痛みは殆ど感じていなかったけれども、その感覚さえもなくなっているような…。
強いて言うなら怪我する前の様な…。

「脚、酷いね。
 外傷は応急処置程度に治癒しておいてあげるけど、中の深いところばアイヅに治してもらって。」
「……アイツ…?」

「…紗暮一皐ね。」
「…!!」

 まさかそこで彼の名前が出てくるとは思ってなくて、慌てて身体を彼から離して振り返ると少し驚いた様な瞳と目が合った。

「………」
目が合った彼の容姿に一瞬意識が飛んでしまう。
不思議な雰囲気なのだ。
淡い月色の髪に薄い肌色、中性的な白い顔にやたらと目を惹く深海のような蒼からマリンブルーのグラデーションの瞳。

…人形みたいだ…。

「……紗暮くんを…知ってるの?」
「…くす、」
あんまりじっと見ているのも悪いのでそう問い掛けると彼は小さく笑った。

「……」
「ごめんごめん、余りにも間抜けな顔を見ちゃったからね。」
て微笑を浮かべたまま言った。
その言葉に少々カチンと来たが黙って置く。

「…俺は…いつきって言う。君は…」
「結月楓花って言うの。」
「………そう、」
楓花が名乗ると彼、韻月は何故か目を伏せた。
そんな彼の様子に気が付いてはいたが、何も訊かない方が良いだろうと思い、留まった。
外見だけではなく、彼の、楓花への対応もまた不思議。

「あ、後ろは見ないでね。」
「…え?」
「惨いから。」
「あ……あぁ、うん。」
韻月のマイペースで少し意識から飛んでいたが目の前には以前のような惨状が…。

「パレットナイフとは、実に残酷な凶器だね。
 切れ味最悪、刃渡りも不十分……のくせ案外頑丈…。」
「……」
「ま、そんな訳だから余り前は見ない方が良いよ。
 興味があるなら別だけどね。」

 そう言えばさっきから彼の口調には違和感を感じる。
表情は柔らかく笑ってくれているのに、声は逆に無表情。
この感じ、彼に似ている。
…紗暮一皐に。

「でも出来ることなら前見ないで貰いたいな。」

 にっと笑った彼にびっくりして意識を戻す。
「…え?」
「もうちょっと君を見てたいし。」
「……ぁ、…えと…」
まさかそんな口説き文句が出るとは思いもよらなかった楓花は一瞬ぽかんとしてしまった。

「…あ、いつきって漢字、どう書くの?」
「あぁ、韻を踏むの韻に月光の月。
 それで韻月ね。」
「韻律の月って感じだね。」

 あぁ、うん。それ良い例えだな、と自分で満足した。
なんか彼に合ってる。

「……、そう…?」
一瞬驚いたように目を見開いた韻月だったが首を傾げて楓花に問うてみる。
それに楓花は笑みを浮かべて、
「うん。漢字にも合ってるし、韻月の雰囲気にも合ってる。
 歌を紡げる月。」
「…ふふ、」

楓花が得意げに言うと韻月は深海のような色の瞳を細めて微笑んだ。
その感じが柔らかくてとても落ち着く。

「さぁ、此処から離れようか。」
「あ…」

 和やかな雰囲気になった場に、そう切り出せば、楓花の痛々しい記憶が蘇る。
そんな彼女の内を知ってか、韻月は優しく頭を撫でてくれた。

「歩けないだろう。運んでく。」
そう言って背中を向けた彼をじっと見て、ああ、背負ってくれるんだと理解した。

「……」

 細い背中だな、なんて急に思った。
大して自分と歳とか変わらないんじゃないかって。
だけど話してみた雰囲気は大人。しかもかなり落ち着いた風の。

「何やってるの?」
「あ、…うん。」
ぎこちなく頷いて反応すると彼は小さく息をついた。

「…処理班には連絡したけど、周りに見られちゃ面倒だから。早く。」
「ごめん。」
さぁ、と促されて手を伸ばして背中にくっつくと脚に手が回され急に立ち上がられた。
「わ…!」
「あぁ、ごめん。」

あんまり反省してない様に謝罪する韻月を恨めしがましく思ったが、案外労る様に歩みを進めている彼に気づき軽く息をつくだけに留めておいた。



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