Story | ナノ
03-01
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「……」

 カツ、と固い靴音を響かせて暗い路地裏を歩く者…。
彼が立ち去った後に残るもの…。

…それは、紅く染まって横たわる死骸。

 返り血を浴びたらしい薄い色素の彼の頭髪は、街が造った、遠くから漏れる光りによって不思議に舞っていた。
何処か人間味…現実味のない彼の雰囲気、風貌。

まるで死神を連想させる、大きな刃物を重たそうに肩に預け、静かに歩いていく。

「……」

 不意に空へと視線が。
空を映した瞳は深海を思わせる碧。
中性的な、整った顔立ちが訝しい、と訴えるようにひそめられた。

「…胸騒ぎがする…。」
そう短く呟き、彼は闇に消えて行く。


2章 月色の死神…



「……」

 ぼー、と言う効果音が物凄く似合う表情で頬杖をついて、片手では画用紙を木炭で叩いている。

 トン、トン、トン、…

絵を描いてる時、深く思案している時の楓花の癖。
その癖は大分周りにも伝わりやすい音で周りの生徒は疎か、今教壇に立つ、画塾の講師にまで聞こえていた。

その講師は塾中一番厳しく、嫌な性格だと言われている。
不幸にも楓花はそんな人間に目を付けられてしまった。

「終わったのか?結月楓花さん。」
「……」

 ぼーっと宙を見つめる楓花に講師の苛つき声は聞こえていない。
唯、唯何かを考えている。

「……結月!」
「はひっ…!」

 声を荒げるとやっと彼女はびくんと反応を表した。
なんと呑気な少女だ。

「終わったのか?」
「え…」
ぽかん、と効果音が付きそうな程の驚いた表情に自分が変なことを訊いたのでは、なんてしょうもないノリな疑問が浮かばれた。

いやしかし、どう考えても結月楓花が可笑しい。
絶対に。

「木炭で模写…終わったのか?」
「あ、……」

 そこでやっと自分が置かれている立場に気付いたらしい楓花。
慌てて木炭を持ち直し、デッサンを開始した。

そんな様子を見た彼は、生徒の前では絶対しなかった溜息をついて頭を押さえた。
「……時間内に終わんなかったら居残りでもう一枚描かせる…。」
「…うぅ、はい。」

 なんて情けない…。
一応自分の置かれている状況を恥じてはいる。
だから名誉挽回でとっとと紙に線を加えていく。
流石にあんな事件があった手前、夜遅くの帰宅は怖いのだ。
そう、ホントに怖かった。

「やったぁ!」

 死に物狂いで木炭画を仕上げた楓花は周りの生徒と共に帰宅の準備をしていた。

なんか、困難を退けた後はまた一段と達成感に満ちあふれるものなんだな、と思考を巡らせながら鞄を肩にかけ、家路に着いた。
大丈夫。今日は以前より早い帰路。

問題ない、問題ない。
なんて呑気な自信を持って一昨日通って行った道に入る。

「……」

 心で強く思っても記憶とそれに対する感情は正直だった。
…足が震える。手も。視線も。

「紗暮くんにお願いすれば良かったかな…。」
実は塾が始まる直前に携帯電話で連絡があったのだ。
燈架琉の携帯電話で出てきたのは一皐で不思議に思ってると、帰り一人で大丈夫かと言うものだった。
その時は純粋に遠慮して終わったのだが、今思うと馬鹿な事をしたのでは?と思ってしまう。

「……」

 息をついて覚悟を決める。
大丈夫だ、多分。そんな毎回毎回ある訳でもないし。
唯、そんな自分を心配して連絡をくれた一皐の事を考えると少し申し訳ない気持ちになったり…でも嬉しかったり。

あんなんで結構優しい所もあるんだなと一皐に対し、少し温厚な考えを持てるようになった。
つい昨日とかは彼は恐怖の対象でしかなかったけれど。

 友人がそんなに多い方ではない楓花にとって他人と親しくなれることは、それだけで気分が良いものだ。
男女全く関係ない。
だからこそ一部の女生徒からは嫌な目を向けられる。
…が、鈍感な楓花にはその理由どころか女生徒の態度にもあまり気づいていなかったりする。
人を信頼しているのか…唯単に無頓着なのか。
彼女の母親でもはっきりとは分からないらしい。

「……あ、」

 気が付くと一昨日の路地に入っていた。
その路地をもうすぐ抜けようかと言うところ。

「…」
無意識に早足になる足音を聞き、その路地を抜けようとする。
此処を抜ければ家は直ぐだ。
そんな中、不穏な音が自らの足音と共に耳に入った。




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