Story | ナノ
02-09
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「そんなこと出来るんだ…?!」

 ば、と異様に輝かしい顔が一皐に向けられる。
その脇で燈架琉がカレーを台所に持って行く姿が目に入った。

「…あ、ああ。」
楓花の表情に少し退され気味に一皐。
「時空操作の一つだよな。
 良いなぁ、俺もやってもらいてぇ…。」
「は、アンタなんかに誰がするか。」

「はは…」

苦笑し、燈架琉はカレーをラップ掛けしてレンジに運んでいる。
そんな彼の一連の流れを唯目で追い掛ける一皐。

「まぁ、楓花。これでお前が作ったカレーの味見も出来るんだ。」
「あぁ…うぅ、それは…。」
「ホントだな。」
「むっ!」

彼ににだけは言われたくない…!
と睨むが、一皐は全くと言って良いほどこちらに気づいていない様子。

物凄く悔しい…。

「ほら、温め直したぞ。」

「……」
「あ、ありがとうございます。」
「わぁい!」

 嬉しそうに両手を上げるシェルシェの横で一皐は無言で出されたカレーを見ている。

「いっただきまーす!」
「いただきます。」
「…」

「案外、見た目はまともなのな、」
「…ガッカリした…?」
一皐の一言にカチンとしたが、堪えて言うと彼は小さく笑って、
「ああ、残念だ。」
と言った。

「………、」

 笑顔は素敵なのに、なんて不意に思った。
普段から笑っていればもっと人から好かれるのでは…?
なんて余計なお世話な事を思う。

 その後和やかに食事を進め、外に出た。
何だかやたらと緊張するのだ。

「ホントにそんな事出来るの…?」

「……出来るけど、他人を対象にしたことないから分からない。」
「え…!」
「何と無くのやり方は分かるんだけどな、」
と何とも言えない風な溜息を零す。

「大丈夫だって、楓花。一皐これでも操魔師の中で一番゙力゙のコントロールに長けてんだ。」
「操魔師の中でって…」

 考えてみると、操魔師って三人しかしなかったような。
一人シェルシェが入ってて…。

「……」
高が知れているのでは?なんて考えていると急に手を引っ張られた。
シェルシェの小さい手が握られていた。

「楓花、楓花。広い場所に出ないと頭打っちゃうかもよ。」
「あ、うん…」

 庭に連れて来られた。
楓花と向き合うように、少し距離を置いて立つ一皐は珍しく何かを考えているようだ。

「…?」

「大きい空間振動…つまり゙力゙を使うには計算式を頭の中で作るんだ。
 で、その振動に見合った力を出さなきゃならない。
 その力が少しでも少なかったり、多かったりすれば…失敗だわな。」
と燈架琉が神妙に楓花の疑問を解決してくれた。

「え、じゃあ相当な頭の良さが必要…とか…?」
「まぁ、その辺の物体が持つ固有周波数とか式とかは機関で叩き込まれてんだけどな。
 …後は、それを使いこなせるかってやつ。」

 要はこうだ。
物体が持つそれぞれの周波数からどれだけの力を使うのか…、その周波数を反響させる環境から計算し力の度合いを導き出す…。

だからさっきシェルシェが広い場所へと自分を誘導したのか、と納得した。

…が未だに信じられない。
そんな科学的な理論であんな魔法の様な力が使えるなんて。

「一皐、物体質量とか分かってんの?」
「楓花のか?」

 両手を楓花に向け、準備が終わったらしい一皐に燈架琉は問い掛ける。
すると一皐は適当に相槌を打ち、
「コイツ助けた時に運んでったからな。
 体積、重量共に把握済み。」
「…な!」

一皐に悪気はないのだろうけど、それは…女子としてその…。

「おい、一皐。もちっと言葉選んでやれよ…。
 コイツ、女の子なんだぞ…?」
「あぁ、忘れてた。」
「……、」

後で覚えておけ、なんて思ってると浮いてもないのに浮遊感を感じた。

 何だか気持ち悪い感覚…。

全てがふわふわしてる感じ。
頭の中とか身体の中身とか…。

「゙無となれ…゙」

「…?」

「゙…かつての痛みを友に 天駆ける渡鳥が告げる場所 赤を糧とし地へ降りろ゙」

 刹那、身体が浮いた。
「…きゃっ、」

「……」
短い声だけが取り残されて、少女は空間から消えた。
はらりと一枚、翡翠色の羽が変わりに舞っていた。


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