Story | ナノ
02-08
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 その子と紗暮君が無関係じゃない…。

何処か意味深な、違和感を感じる言葉。
けれど、自分の突っ掛かった記憶の糸が少し手応えを感じたような…なんだか曖昧な、そこはかとない感覚を覚えた。

「つか楓花、早く食っちまわないと…」
「ギャーーァぁあぁァァ!!!ごめんなさいぃぃぃ!」

 促すように掛けられた燈架琉からの言葉は、耳を劈くような悲鳴に掻き消された。
同時にバタバタと足音も聞こえる。

「やーぁ!」

 ガチャン――

勢い良く扉から飛び出してきたシェルシェが悲鳴と奇声を上げながら楓花に駆け寄る。
「ふうかーぁ…」
「…あ、テメ…ッ」
「あれ、どうしたの…?」

 楓花に飛び付いたシェルシェの後を追っかけて一皐も姿を見せた。
どうやらシェルシェは鬼の形相の一皐から逃れようとしているようだ。

「おーおーシェル、一皐に虐められたか?」
「うー!!」
こくこくとシェルシェが頷く。
そんな彼の頭を撫でてみた。

「わ…」
凄く柔らかい髪質。
見た目通りのふわふわな猫っ毛。
…と言うか、鳥の羽毛に近い感じだ。

「…兄さん…」
苛、と負のオーラを漂わせる一皐に燈架琉は唯笑うだけだった。

 …此処だけ見れば微笑ましいんだけど、と胸中で複雑に思う楓花。

「こいつ、またアレ食ってたんだ。」
「ああ…シェル、アレは家では食うなってあれだけ言ったろ。」
「うぅぅうぅ…だってぇ…」

「アレって…?」

「あ…」
「あ、」
一皐と燈架琉が同時に声を上げた。
人間が何かしくじった時に出るソレと二人のソレは同じな事に気づく。
楓花は確信する。

まだ何か秘密があるのだと。

「…何のこと…?」
問うと、こちらにしがみついていたシェルシェを剥ぎ取り、一皐が楓花の側に腰掛ける。
ついでにシェルシェは羽交い締めにされている。

「さっき、シェルがジャムを食ってたろ?
 …アレだ。」
「ふぅん…?」

 それだけで二人掛かりで注意を?
と疑問が膨れ上がる。

「…アレな、特別なやつなんだ。」
ひそ、と言う感じで口元に手を添えて燈架琉が言う。
それに首を傾げると彼は更に続けた。
「…一皐さ、甘いもの大っ好きで…」
「…な…!!」

ばっ、と燈架琉を見る一皐。
信じられない、と言った表情だろうか。

「シェルシェは何時も勝手にあのジャム食うからなぁ…」
「……、」
言い返す言葉を探すように俯いてしまった一皐。
そんな彼の様子に若干驚きつつ、彼の顔を伺い見る。

「…紗暮くん…甘いもの好きなんだ…?」

 覗き見た彼の顔は気まずそうな、困った様な表情。
それに純粋に意外だな、と思った。

「へぇ…!意外。」
「うっさ…」

悪いか、と悪態付く一皐から何時もの刺々しさを感じない。
大人っぽい外見からか、少し近寄りがたい感じであった彼の中学生らしいところを見た気がした。
何だか、擽ったい気持ちでちょっと嬉しい。

「えへへ、今度一緒にケーキ食べに行こうよ。」

 そう切り出してみると困ったような表情のまま、今度な、と彼は言ってくれるのだった。

「楓花、塾。」

「あ!!」
「……?」
「?」

 燈架琉の声にぴょこん、と楓花が身体を伸ばす。
それに一皐とシェルシェが驚いた様子で見てきた。

「塾って…?」
全く聞いてない、と一皐が燈架琉を見る。
燈架琉はそんな一皐に笑いかけ、
「画塾だってよ、今日。」
「…ふぅん…」

 一方の楓花は部屋の掛け時計を見、後三十分の時間しかないことに焦りを表していた。

「ここから大体、十分くらいだと考えて…」
口元を抑え、ぶつぶつと何か言う楓花。
そんな楓花を一皐はちらりと見て溜息を零した。

「…、家を出るのは五分前で十分だ。」
「…え?でも…」
良いよどむと燈架琉から笑い声が聞こえた。
なんだか場違いな楽しそうな声にそちらを見るとこちらにも笑いかけてくれた。

「一皐お前、自分から送ってやるって言うとはなぁ…」
「うっさい。消えろ。」
「まぁまぁ…。
 楓花、コイツ塾まで送っていってくれるらしいぞ?」
「え?…でも…」

「バーカ、一皐ば力゙を使ってくれるって言ってんだ。」
「え…」



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