Story | ナノ
02-07
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「それにしても…」

 ふと口元を押さえて真剣な口調で燈架琉が切り出した。

「カレー冷めちまったかも…。
 せっかく作ってくれたのにわりぃ…」
と、そのカレーに視線を落とし、肩を落とす燈架琉。
何だかその感じがちょっと子供っぽくて不意に笑いが零れた。

「…なに、」
「あ、厭…ちょっとヒカさんが可愛く見えて…。
 カレーならレンジで温めましょうよ。」
素直な感想を述べるとちょっとバツの悪そうな…なんか少し変な顔をした。
「あんなぁ…。
 てか、カレーをレンジでは…ちょっと遠慮してぇ…」
うなだれて、苦笑気味に言ってきた燈架琉に楓花も笑い、和やかな雰囲気が場を包む。

 なんだか、落ち着く…。

「…あいつも案外楽しみにしてたのかもな、」
「あいつ…?紗暮くんの事ですか?」
「そそ、」
頷いてカレーに手を付ける燈架琉を唯見守る楓花。
対する燈架琉はゆっくりルーとライスを掬い取り、口に運んだ。

「ん、上手いよ。…やっぱちょい冷めてっけど。」
「……ヒカさんが殆ど作ってくれたからじゃないですかぁ…」
「そうかぁ?俺は分量見て…とかしかやってねぇけど。」

「…包丁の手解きを少し……」
恥ずかしそうに俯いて言う楓花を笑い、頭を撫でてやる。

「ありゃあしょうがない。誰だって最初はあんなんだし、怪我もする。
 …ま、お前の場合少し不注意過ぎだが…」
「うぅ…」
「よしよーし!!」

わしゃー、て盛大に撫でられて楓花は俯いて唸る。

 でも嫌な気分は全くない。
ちょっと楽しかったのも事実。

「お前が作るの待ってた訳だろ、一皐。
 楽しみにしてたと思うんだけどなぁ…」
と、顎に手を当て、一皐分のカレーをじっと見つめる。

「ないですよ、それ…」
苦笑気味に楓花が言うと燈架琉は首を傾げる。
「なんでそう言える?」
「だって…」

 俯いて、さっきの一皐の無表情を思い浮かべた。
「作る前は失敗するなって言ってきたし、作り終わってカレー持って行った時なんか、隠し味にお前の血でも入ってんのか、て聞かれたり…」
楓花の言葉にふーん、と頷く燈架琉。

 でもその言葉ってどう考えても…
「…それ、食べる前提の発言だよなぁ…」
「…。ああ…」

 ホントだ、と声を上げる。
確かにそうだ。食べる気でいなかったら、わざわざ言うことはないだろう。何せあの一皐だし。

「…ふふ、」

 他人に心を開かない人間が、少しでも自分に気を赦してくれているのか…。
そう思うと少し幸せな気分になった。

相手の心が少しでも変われるきっかけになれたら…、なんて思うのだ。

「……、」

 そう言えば昔、一皐と同じ様な感じの子がいた。
誰にも心を開かなかったのだ。どんなに周りが優しくしても。

結局どうなったのか…。
余り記憶に残っていない。
唯、あの子の何も映さないような瞳が彼…一皐と少し被って思い出した感じ。
あの子が男の子か…女の子かも忘れてしまった。

あの子の表情と数年前の記憶と言うこと以外は…。

「…あれ…?」

 でもなんで此処まで思い出せないのだろう。
その前の記憶は鮮明に覚えている。

楓花は記憶力は良い方だ。なのに…
なのに、こんなにあの子の事が思い出せない。

手繰り寄せた記憶の糸がぷっつりと途中で切れているような…妙な不自然感。
此処まで自分の記憶を疑ったことはないけれど…

「おい、」
「……、…ふぁ…?」

 急に思考世界から現実へ。
はっとして前を見ると不思議そうな燈架琉の視線とぶつかった。

「…どうしたよ?」
「あ、厭…。
 ゴメンナサイ。ちょっと思い出しちゃって…」
「……?」

何を?と聞きたそうな燈架琉の表情に微笑で返し、
「昔、紗暮くんの様な感情表現が苦手な知り合いがいたな、て…」
「……」
「初めて会ったときの表情とそれしか覚えてないんです…。
 けど、なんか思い出しちゃって。」
変ですね、て笑う楓花に燈架琉は小さく笑った。

「案外無関係に思えて、自分の直感は正しかったりするんだ。
 …もしかしたら思った程その子と一皐…無関係でも無いのかもな?」
と言ってくれた。



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