Story | ナノ
02-05
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「シェル…。」
「なに、一皐?」
キッチンで仕度をしている二人を見ながら、徐にシェルを呼ぶ。

「そんな物騒なもの、リビングに持ってくんなって言ったよなぁ…?」
「…あ、」
そう言って瓶詰を背中に隠した彼はそそくさとリビングを後にした。

「…ふぅ、」

 ドス、と背もたれに深く身を預け、息をつく。
もやもやが収まんない。
何なのだろう、一体…。

暫くぼーっとして時間を過ごしていると、良い匂いが立ち込めてきた。
丁度、お腹も空いた頃…。

「紗暮くんー、もうちょっとで出来るよー?
 起きてる?」
「……あぁ、」

勿論、全く寝てないし…。
なんでそんな質問を投げ掛けられたのだろうかと疑問に思ったが取り合えず返事だけはしておく。

そんな一皐の相変わらずな無愛想な返答に楓花は安心したように微笑むと、また奥に引っ込んだ。

「……」

 なんだろう…、この感じ。
厭、考えるの止めよう。面倒だし。

「一皐〜ぁ!」
パタパタとスリッパを鳴らせ歩いてきたシェルに溜息をつき、視線を向けた。
倦怠感剥き出しの表情で。

「…これから飯なんだけど…?」

 口周りをべっとりと汚してきて再登場したシェルを睨む。
もう、それを見てると折角湧いた食欲も何処かに失せそうになる。

「一皐がご飯を楽しみにしてるなんて!」
信じられないって瞳でこちらを見てくる彼の口周りを乱暴に拭ってやる一皐。
正直こんなことしなくないのだが…

「あぁ!もしかして楓花が作ってくれてるか…、ふぐぇッ!!!」
口周りを拭っていたティッシュをそのまま口の中に突っ込んでやって終了。

一皐は何もなかったかの様にソファーに深く腰掛け、ヘリに肘を乗せ頬杖を付く。

「おまたせー。」

 そして大きいトレーを両手に楓花が出てきた。
大分奮闘したのか指に数箇所絆創膏が貼られている。

「………」
目が良い一皐はちゃんとそれに気付き、指差した。
「隠し味にお前の血でも入ってんの?」
「むっ!」

キッと睨んできた楓花から視線を反らし、部屋の隅に顔を向ける。

 そんな一皐の様子に唸りながらトレーをテーブルに置いた。
そして隅っこに立っている少年に目が止まる。
赤く染まったティッシュを口にくわえ込んでいた彼は苦しそうにティッシュを摘んで取り出そうとしている最中…らしい。

「どうしたの?ティッシュなんてくわえて…」

「…っ!」
「……、」

純粋に疑問に感じ、シェルと呼ばれていた少年に声をかけた。
すると彼はは赤い大きな瞳を見開いて口元をさっと両手で覆った。

不意に一皐を見てみると戸惑った様な、困った様な視線のさ迷い方…。
怪しい…。
実に怪しい。

「そのティッシュなぁに?」
「むー!!むー…!」
両手で口元を覆ったまま首を激しく横にする彼。
…だから余計に怪しいんだって、と苦笑して彼の目線に合わせるようにしゃがんでやった。

すると彼は困ったように、ちらちらと一皐に視線を向ける。

何か見付かっては困るものなのだろうか?
けど、中身はティッシュだった筈。

 思考を巡らせ少年を見ていると、あからさまに面倒臭そうな溜息が聞こえた。

「…飯だと言ったのに、さっきまで瓶詰のジャムを口にしてたんだ。」
「あ、だからティッシュが赤かったんだね?」
「…ああ…。」

一皐の説明に楓花は立ち上がり、顔を一皐に向けて
「…でもなんでティシュを口に…?」
「それは俺がやった。」

 事実はそれだけだけどな、と胸中で零し、上手く乗り切れたことに安堵する一皐。
楓花の様な一般的な人間には絶対言えないのだ。

「そっか…。
 後、もう一個良い?」
「…?」

もう一個…?

楓花の言葉に疑問を抱いていると、彼女は真っすぐこちらを見てきた。

「゙シェル゙っでシェルシェ゙のシェル?」
「……っ、」
「…!」


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