Story | ナノ
01-15
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「…もう帰れば?」
「え…?」

 用事は済んだだろうと言う一皐に楓花は気まずそうに、
「あのー…友達にはお弁当食べて来るって言っちゃって…」
「………」
「あの、だから…」
様子を伺い見る楓花に一皐は溜息をついた。

「…勝手にすれば、」
「!…ぁ、ありがとう!」
『わーい、楓花も一緒!』
「うっさ、」
『ぶー…』
相変わらずシェルシェには発言は厳しく…。
そんな二人の脇で楓花は弁当の準備に取り掛かる。

「あれ、そう言えば紗暮くん、お弁当は?」
「……」
問うと一皐は適当に一つの菓子パンを掲げ、主張する。

「それで…足りるの…?」
「…まぁ、」
『あー、一皐また燈架琉が作ったお弁当食べない気?』
「煩い。」
「……?」
シェルシェの言葉に楓花はカクンと首を傾げる。
「もしかしてお兄さんがお弁当、作っておいてくれてるの?」
「……」
『そうだよー。
 なのに一皐は燈架琉の作ったものを食べようとしないんだ…いてッ』
暴露しまくるシェルシェの頭に一皐の拳が入った。
どうも知られたくない事の様だ。

「じゃあ、私のお弁当食べる?」
「…は、」
「お兄さんが作ったのが嫌なら、私のお母さんが作ったものなら食べるかなって。
 あ、でも他人が作ったものを食べれないのかな、」
「………」
「…紗暮くん…?」

 じっと楓花の顔を見つめる一皐の視線に気付き問うと彼は口元を押さえた。
「…くく、アンタ面白いな…」
そして腹を押さえて小さく声を上げ、笑うのだった。

「…じゃあ、交換してもらっても良い?」
「え?…ぁ、うん。」
はい、と渡すと何処から持ってきたのか、シェルシェが弁当巾着を首にぶら下げて差し出してきた。

「お母さん以外の人が作ったお弁当、始めて食べるなぁ、」
弾んだ声で楓花。

「……頂きます、」
そんな楓花の脇で一皐は小さく呟くと弁当を手に取った。

「いただきますー」
『まーす!』

楓花の直ぐ隣には、さっきまで一皐が持っていた菓子パンの包みを開けたシェルシェが腰を下ろしていた。

「あ、美味しい!」
「……」
楓花が感動の声を上げ、一皐は無言で楓花の弁当を食べている。

 一同、暫く和やかな昼食の時間を過ごした。
一方的に楓花からの会話だったが気まずいことはなくて、毟ろ少し居心地が良かったかもしれない。
一番はシェルシェとの会話で、本当に幼い男の子とお話ししているようだった。

 気付けば授業前の予鈴が鳴る。
楓花はそれを聞いて慌てて弁当を畳んだ。

「あ、お弁当美味しかったよ。」
はい、と弁当箱を返す楓花に一皐は表情のない瞳を向け、
「…これも、」
と言い楓花へ弁当箱を返した。

「……、じゃあまたね。」
嬉しい表情を堪えたような微妙に可笑しい顔をして去っていく楓花を唯見守った。

「……変な顔、」

『えー!楓花は可愛いよぉ?』
にょき、と視界に入ってくるシェルシェを殴って一皐は床に転がった。
雲がそよそよ流れていく様を唯見ていた。

『一皐…?』
「お前はもう帰ってろ。」
授業も後一時間で終わるから、と伝えるとシェルシェは弾んだ声で返事をした。

「……」

 なんだか変な気分だ。
楓花には何の感情も抱いていない筈なのに妙な感覚がした。

「…、」

気のせいだろうと溜息をつき首を振る。

一皐がその違和感の意味に気付くのはまだ遠く先……――








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