Story | ナノ
01-14
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「紗暮くんッ!!!」

 落ちていった一皐を追うように立ち上がって走り出した。
ふらふらになってフェンスに捕まり、下を見る。
けれど彼の姿は見えない…。
最悪の自体が脳裏を過ぎる。

「嘘…」

 ぽつりと呟いた自分の声が酷く大きく聞こえた。

何もかも分からない。
色々な事が一気に起きすぎだ…。
どうしよう、と困惑している楓花はその場でへたり込んでしまった。

頭がぐるぐるする…。

『ねぇ、何処を見てるの?』
不意に上からシェルシェの幼い、純粋そうな疑問の言葉をかけられた。
それに何故だか焦りながら楓花。

「だって、貴方の主人が…!」
声のした上の方に視線を向けた。

調度フェンスの上。
楓花の真上のフェンスの淵に立つようにいた。

「………な、んで…」

「…俺が…、何…?」

音もなかった。
彼が上ったらしい音もなかったし、第一彼は飛び降りた筈。
一体、どうなっているのか…。

 腕にシェルシェを止まらせた一皐は、相変わらずの冷めた瞳。
瞳の色は黒色。

「言っただろ、飛べるって。」
「…ほ、ホントに飛んだの…?」
「あぁ…。コイツを使って」
言って一皐は腕を振り、シェルシェを放つ。
シェルシェは自慢げにその綺麗で大きな羽をはためかした。

「………」
「ぅわー…」
そんなシェルシェを楓花は間抜けな声を上げて見上げる。

 とっても綺麗。
羨ましいと思った。

「……ホントに不思議な力を使えるんだね…」
「…くす、直ぐ信用する…。」
小さく笑われて彼の表情を伺うと目を細めホントに微かに笑っていた。

…と言うか、直ぐ信用する…て。

「騙したの…?」
「厭、コレはホント。」
「コレは…って、」
突っ掛かった言葉に楓花は不信をあらわに呟く。
すると一皐はフェンスから跳び、屋上の固い床に着地。
楓花の直ぐ隣に立つ形になった。

「…意外に目敏いな。」
「……、」
少し伺い見るような…挑戦的、と言うか…。
今の紗暮一皐は楓花をそんな目で見ていた。
一方の楓花は不安そうな…居心地が悪そうな…どう見ても良いようには見えない顔色。

「コレ以外は略嘘塗れだな、」
「……」
「ま、俺がやった訳じゃない。
 ホントはお前なんて助けなくても良かった。」
「…お兄さん…?」
尋ねると一瞬、一皐の顔色が曇った。
「…とか、」
「他にも誰か…って事?」
また尋ねてみると適当に頷いて答えてくれた。

「……じゃあさ、なんで私を助けてくれたの…?」
『あ、それは…』
「コイツが…」
一皐の肩に止まったシェルシェが言い辛そうに口出しするが虚しく一皐に遮られた。
「コイツがお前を助ければ俺に利益を齎すって言ったから。」
「…シェルシェ…?」
『…ぅ、うん。』
こくん、とぎこちなくシェルシェは頷いた。
何か言い難いことでもあるのだろうか。

「えと…利益って…?」
「……」
尋ねたが一皐は黙ってしまった。
それを分からないものだと勘違いした楓花は申し訳なさそうに、
「…ごめんね。私何もあげられないや…。」
とうなだれた。
そんな楓花を一皐は、馬鹿じゃないと一言。

「……ば…、」
「…、勝手にやったことなんだから礼とか要らないし…。
 抑そんな下らないもの、どうだって良い。」
「ぅ…うん…。」

 声音は怖い。
…けれど言葉自体は怖さは無く…
毟ろ少しこちらを気遣っているのではないか、と楓花は思った。

「でも、助けてくれてありがとう。
 私、本当に感謝してるんだ。」
「………」
面と向かって言った筈なのに気が付けばあちら側の視線が何処かに行ってしまった。
どうやら照れている様子。

「……あ、ぅ…腕噛まれてたよね?
 だ大丈夫だった…?」
「…あぁ。」

尋ねると一皐は学ランの袖ごと捲り、一昨日噛まれたらしい場所を差した。

「…あれ?」
「怪我も簡単に治るんだ。」
「そ、そか。良かった…。」
「……」




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