Story | ナノ
02
--------------------+
「ビルが建てば空はその形に切り取られる。
木や森があればその形に。
何もなければ満天に、途切れる事なく空は広がる。
私ね、そんな空が好き。何時も違う顔を見せる空が好きなんだ。」
「………、」
そんな風に思ったこと、無かった。
けどそんな考えも良い。
そんな感性が羨ましかった。自分には到底持てないものだから。
「ゴメンネ、つまんない事話したね。」
「…厭…」
呟く様に言い、首を振る一皐に楓花は嬉しそうに笑いかけた。
学校の校門を出ると日は更に落ちていた。
まだ明るさの残る道を二人並んで歩いていく。
「…俺は…この感じが好きだ。」
「…え…?」
ぽつりと呟くように吐かれた言葉に楓花は首を傾げる。
急なものだったがどうやら聞こえていた様だ。
「夕日が落ちてって影が広がる感じ。」
「黄昏れって…言うんだっけ?」
「そう。」
「…ちょっと物寂しいよね…?」
「…あぁ、」
「何で好きなの…?」
「………懐かしい感じがする。」
「懐かしい…?」
「…そう」
首に巻かれていたマフラーに一皐は口元を埋めた。
「ずっとこんな色の視界でひたすら何かを探してた記憶がある。
多分かなり昔、幼い頃のものだと思うけど…それが唯一のガキの頃の記憶…。」
「そっか。きっと大事なものを探してたんだね、その紗暮くん。」
「……?」
きょとん、とした視線が向けられた。
かなり珍しい一皐の表情に楓花は笑みを零し、
「だって唯一残ってる幼い頃の記憶でしょ?
きっと大事なものを探してたんだよ。なんか良いね、そう言うのって。」
そう言って楓花はにっこりと笑ってくれた。
昏く昏くなっていく黄昏れの中、その彼女の笑顔が妙に心に残った。
なんだか…可笑しい。
一皐はふっと笑った。
「…なに?どうかした?」
「……またコレが好きになった…かも」
「コレ?黄昏れ?」
「そ…、」
「…?」
過去の、何かを探す自分。
今もこんな色で何かを探してるんじゃないか。
昔は幸せになれると信じてた。
焦がれていた楽園…
そんな楽園に行く筈だった。
だけど行けなくて…
理想を描いて見上げて追い求めた。
…けど案外近くにあるのかもしれない。
遠く遠くに目を向けるより自分の周りを見てみたら…案外その大事なものが見つかった。
そう、見つかった。
今の大事なものは見つかってないけれど…見つけられるように…昏い道でも。
昏い視界に映った満面の笑み。
これも忘れることのない、大事な記憶になりますように…。
「紗暮くん、幸せそうだね?」
「……はぁ?」
「あぁ…うん…嘘。」
これでもかって程の嫌な顔をされ、楓花の視線が逃げた。
そんな楓花の頭を軽く小突いて早足で歩いた。
「な、なに?!」
「大事…が出来た…」
「ふわぁい?!ちょ、早くて聞こえない。待って!
大臣が出来たって言った?」
「……もう良い…」
記憶のほんの端っこで優しい温もりに包まれて泣きじゃくる自分があった。
意識も出来ない程隅っこだけど、大事な記憶。
温もりはなくなってしまったけど…
まだカケラが見つかったばかり。
今はまだがむしゃらに、がむしゃらに昏い道を探し回って……
End
- 31 -
-front- | -next-
Site top