Story | ナノ
01
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 昔は何時か手に入れられると信じていた。
絶対に、誰にも平等に存在すると信じていた。
何時か手に届く日が来るまで…自分は我慢していよう…

…そう思っていた。

その手が昔より大きくなっても掴めない…。
それが゙人゙の生だ。
皆が皆、平等ではない。理不尽の上で成り立っている世界なのだ…。





【昏い道、希望ソラ】



「…………」

 目の前に満点の青空。
所々に雲の固まりが風に流れている。
自分に吹き込んで来る風の様に、その雲の動きは心地好く感じられた。

「…ー、」
すぅ、と空気を肺に溜め込んで、
「ー…」
ゆっくりと吐き出した。
この行動が妙に落ち着くのだ。

――キンコーン…

「……」

 すぐ近くで鐘が鳴った。
授業の終了を知らせるもの。今日の授業はこれで終わり。
しかし、授業を自主欠席している今の一皐にして見れば嬉しくない終鈴の音。

 因みに一皐の自主欠席の理由は、気分が優れないので…。
精神的に他人に触れたくないのだ、今は。

…ある人物を除いては。

「紗暮くんー。お待たせ。」
「……、」
声を聞いた一皐は待ち侘びた様に横にしていた身体を起こし、屋上に上がってきた楓花を見た。
でも何時もの興味なさそうな顔は忘れない。

「……おせぇ…、」
「うー…ゴメンナサイ…。
 でも紗暮くん、サボってたんだからこれくらい良いじゃない…」
うなだれて見せた楓花。しかし一皐への反論は忘れない。
「サボりじゃない。体調不良。」
「ふーん…」
楓花は実に不服そうに言うのであった。

 なんだかこんなやり取りがくすぐったい。
今までこんな風に話せる相手はいなかった。
いつも自分に掛けられるのは、居心地の悪い気遣いの言葉や蔑むような言葉、命令や憎しみ…そんな息が詰まるような言葉塗れで、楓花とのこの時間はなんだか自分が等身大の中学生でいられる様な気がした。

まぁ、そんな自分が物凄く恥ずかしく、くすぐったい訳で…。

「あ、そうそう。もうそろそろ受験じゃない?
 なんか面接練習の日取りってプリント貰ったよ。」
「……?」

 訝しげにそのプリントを見せて貰うとしっかりと日取りの表の中には自分の名前が書いてあった。
「以前にもやらなかったか?って思ったでしょ。
 残念、これは追試。」
前回成績が悪かった人が対象なんだと楓花はやけに嬉しそうに伝えてくれた。

それを聞きながら楓花の名前を探すが見当たらない。
成る程、やけに嬉しそうな訳だ…。

「紗暮くん、ボロボロだったんでしょ?
 想像出来るよ。」
「……、」

 苛、と感情が一瞬顔に出た。
それに楓花はびくん、と身体を跳ねさせると苦笑気味に笑い、
「じゃあ練習しよう!私教えてあげるよ!」
「…いい。」
「えぇ!紗暮くん自信たっぷり?案外自信家なんだね?」
「…………」

その楓花の言葉には流石に何も言えなくなる。
しょうがなく流されるままに練習をさせられた。

 楓花の異常なスパルタに同じず練習をすること小一時間。
全く開始と成果が変わらない一皐に楓花の気力切れで練習が終了した。

「…ふふ…紗暮くんも頑固だなぁ…」
うなだれる楓花。
「…まず、にっこり笑顔で、ってのから無理だから。」
「ぐ〜ぅ…」
一皐の一言に楓花は悔しそうに唸った。

「…もう帰らないか?日暮れてきた。」
「あ、ホントだ。」

 立ち上がった一皐は伸びをしながら空を見る。
それを見、楓花も立ち上がった。

「うわぁ…夕日綺麗だね。」
「…いつも見れるだろ…」

屋上のフェンスを掴み、夕日に目を輝かせる楓花を、一皐は溜息をついて見守る。

「違うんだよ。
 いつもいつも空の模様は同じにはならないんだよ。
 天候や気温に左右されるし、時期や町並みによっても変わる…。」
「…ふーん…」

 彼女がそこまで言う空を見てみた。
ゆらゆらと揺れるように夕日はビルの隙間に消えようとしている。
なんだか…不思議だ。

「町並みによって空の形って違うよね。」
「…?」
どう言うことだ?と一皐は眉を寄せる。

一皐は楓花の後ろに立って、楓花はじっとフェンスの向こうを見ている為互いの顔は把握できない。

けれど楓花は一皐の疑問に答えてくれた。




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