Story | ナノ
01-11
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そんな楓花の百面相。
実に楽しい。
依鈴は別の意味でニヤニヤと笑い、楓花の額を突いた。
「まぁ、アレでしょ。
街中でチンピラか何かに絡まれて紗暮くんに助けてもらった。そんな感じ?」
「……う、うん………。
そ、そんな感じかな…」
嘘だけど。
今だけ嘘を付いてみよう。幸い、納得してくれたみたいだし。
「お昼、誘われたみたいだけど行くん?」
「うん〜…行ってみたいけど…」
まだ疑問が解決した訳じゃないし…
でも周りがな…
「OK、じゃああたしは咲希を足止めがてら誘うわ。」
「…?……うん…」
足止めってなんなんだろう…?
と首を傾げるが余り気にしないでおいた。
授業を知らせるチャイムが鳴る。
授業の為に教科書を開いた。
が、その日の授業内容が全く頭に入らなかった。
特に深い考えをするでもなく唯ぼうっと授業を過ごしていた。
「……」
ふいに外を見てみた。
だけどあの烏の姿はなくて…
何かを期待するように空を見ていたが時間ばかりが経過した。
そして気がつけば昼の時刻になっていた。
「いっちゃん〜、楓花〜ぁ!!」
「お、びっくりした。早いな、咲希。」
授業が終わった直後に廊下から声が聞こえた。
それに依鈴は苦笑して手招きする。
「……ぁ、じゃあゴメン。私今日トモダチに誘われてて…」
突然の咲希の登場に楓花は堅くなりつつ、弁当を持って席を立つ。
視界の端には教室を出る一皐の姿。
「えー!!いろいろ聞きたい事とかあったのに〜ぃ!!」
「良いじゃん、後でで。放課後とかあんたどうせ暇でしょ?」
「うーん…そうだけどぉ…」
ちろちろと視線を楓花に向け、不服そうにする咲希。
そんな彼女に苦笑して、
「あはは、ごめんね。放課後ちょっとだけなら時間あるからその時に…」
「あれ?今日、塾?」
「うん、そう。」
「ぶー…」
そして不服そうに唸る咲希。
慌てて退室する楓花を横目に咲希は机に突っ伏して、
「楓花のあと着けよっか!」
と目を輝かせた。
「私は嫌。他人のそう言うのに介入するもんじゃないし、抑、ご飯食えないのは嫌。
行くなら一人で行けば?」
と冷たい口調で言われてしまった。
まぁ、一人で行けば、と言っても、お手洗い行くにも友人を付き添わせる性格の咲希では到底無理だと思って言ったこと。
案の定、咲希はぶつぶつと不平を零しながら昼食の準備に取り掛かった。
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「…はぁ…」
屋上への階段を上る足、かなり重かった。
なんとなく勢いで来たが、一昨日の事を思い出すと…。
しかも弁当を持って来ていると言う…
カクンと肩を落とした。
「なにやってるんだろう私…。
弁当なんか持って来たってご飯、食べれないじゃん…」
逆にお腹減る…と、うなだれて長い階段を上る。
着いたら自分、何の話からしよう。
一昨日のコト…。
欠落した記憶が徐々に…足を進めていく度に鮮明になっていく気がした。
固い爪が道に響く音。
自分の荒い息つぎ。
低音の唸り声。
真っ赤な血。
揺らめく瞳の翠とナイフの鈍色…
血溜まりに浮かんだ臓物…………ッ、
「!?」
必死に頭を振り、光景を振り払う。
ダメだ。
恐怖に思考がおかしくなっている。
どんなに恐怖から逃れようと頭を振ってもその緊張感からは解放されなかった。
心臓がバクバクと激しく早く動いていた。
「……、」
俯きがちに階段を上っていたら、いつの間にか踊り場らしき床になった。
顔を持ち上げると重そうな鉄の扉。
此処の学校の屋上は使用禁止になっている。
なんでも昔、この屋上から飛び降りた生徒がいるらしい。
まぁ、生徒間での噂に過ぎないが…。
「……、」
自分を落ち着ける為に息を着いた。
大丈夫、大丈夫…と胸中で自分に言い聞かせ、ドアノブを捻った。
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