Story | ナノ
01-10
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「ねぇ、楓花ぁ…」
「あ、チャイム…」
 猫なで声の咲希を遮り、無情にもホームルームを告げる本鈴がなってしまった。

「……ぶー…」

苦笑する二人に咲希は不服そうに口を尖らせ、教室を後にした。

 今日もつまらない授業が始まった。

「じゃあ、出席を取るぞー…」
担任の名指しに皆やる気がないように返事をしていく。

「…紗暮一皐、」

「……はい、」

何故だか彼の名前の時ははっきりと聞こえた。
それをぼう、と窓を見ながら聞いている。

 声、小さいな…等余計なことを考えつつ、少し寂しげな冬空に視線を向け、雲の流れを見送っていた。

「……?」

すると気になる飛行物が見えた。

鳥…?厭、鳥はこんなに大きな翼を持っているのか…?
と言うか、緑色って……

……緑色…?

 ば、と顔を窓に向け、遠くを見る。

間違いない。
あの、シェルシェと呼ばれていた烏だ。

「結月ー」

「……はいー……」

名前を呼ばれ、素っ気なく返す。
そんな事に気取られない程、彼の行く先が知りたかった。

しかし、シェルシェは校舎の真上を通って行ったきり、姿を見せなかった。

「………」

暫く待ってみたけど見つからなかった。

視力に自信があるので見過ごしはない…と思う。
だから余計気になって、一限の授業がもどかしくて仕方なかった。

 やっと授業が終わると、依鈴と会話を交えることなく彼の元へ。

「…紗暮くん。」
「………」
彼は緩慢な動きで教科書を締まっているところ。

少し、意外そうに視線を向けて来る一皐の目を真っすぐ見つめ返し、
「シェルシェ、いつも君と一緒にいるの…?」
「…はぁ…?」
鬱陶しそうな返しに身じろぐが、気になってしょうがないのだ。

「一昨日、私が画塾の帰りにシェルシェに助けてもらった。
 君にも…、だよね…?」

「………」

「私、どうしても理解できない。あんな夢みたいな事…」
「煩い。」

「…え……?」

余りにも冷たい一言に身が凍った。
彼の細められた視線が鋭利に楓花の心に刺さる。

「…アンタが何を言いたいのか分からない。
 目的もないなら話し掛けんな。」

小声で、こんな人前で…、と付け足された。
それが意味することにやっと気づき、口を紡ぐ。

「…いいか…?」
ぐい、と制服のリボンを捕まれ彼の傍まで顔が近付いた。

 クラスの皆が興味深そうに二人に視線を向けだす。

「……お前を助けたのは何も善意があった訳じゃない。
 …言われたからだ。お前を助けろと。それが俺の利益に繋がるから、と。
 だから、お前は俺の昇格題材の一部。分かったか…?」

とても黒い声で耳打ちされた。
余りにも怖い言葉と声に背筋が凍った。
…と言うか、粟立った。

「……分かったら人前で話し掛けてくんな、」
苛立ちを剥き出しにした声でそう言うと首元を押して引き離した。

「…ケホッ、…」

胸じゃなかった分良かったが首元を押されると流石に辛い。

 首を押さえて咳込む楓花に、
「……昼休み屋上にいる。来るなら来い。」
と周りにも聞こえるだろう、普通の声量で言われた。

 楓花の脳内解釈。
『つべこべ言う前に殴られに来い』…

内心、恐怖しつつコクコクと細かく頷くと楓花は直ぐさまその場を離れた。

 ざわざわ…

 次の授業前の10分休憩。
短い休み時間、当然教室には沢山のクラスメイト。
故、皆あまり外には出ようとしないだろう、そんな時に楓花と一皐は予想以上に注目されてしまった。

仲良しグループではない女子からの視線は何故たか物凄く痛いし、男子も、あの結月が…、と好き放題に噂している。

「ヒュ〜ぅ、大胆」
 席に戻ると楽しそうに話す依鈴。

彼女にさえ、なんて言って良いのか分からず、席について顔を俯けていると依鈴は励ますように頭を軽く叩いてくれた。

「仲良さ気だけど、何処で知りあったん?」
「な、仲が良い?!そんな馬鹿な。
 仲が良かったら私を利益目的で助けたなんて言わないよねッ?!」
と、自分にしか伝わらない事を言い、自分で、何を言っているのか、と頭を抱えた。



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