※猫化注意


夕立の酷い日だった。

ちょっとした用事を済ませて帰る途中、か細い声を聞いた。それが始まりだった。


ビニールの傘を破らんばかりの勢いで吹き付ける雨の中、微かな声だけを頼りに、河川敷まで降りた。
案の定、橋脚の下には草臥れた段ボール箱が置かれていて、中には小さな黒猫が中に敷かれた襤褸にしがみついて震えながら鳴いていた。
恐らくそのまま放っておいては河の水嵩が増して流され溺れてしまうか、もし無事だったとしても風邪をひくなりして数日も持たないだろう。私は黒猫に手を伸ばした。
黒猫はようやく私に気づいたらしい、緑青の大きな瞳をこちらに向けた。なるべく怯えさせないよう、そっと襤褸で包み、抱き上げる。
猫は、微動だにしなかった。





足元をびしょびしょに濡らしながら家に帰り、そのまま風呂場へ直行した。黒猫の体も自分の体も冷えきっていた。
猫を襤褸から出して、温かいシャワーを体に当ててやる。猫は一瞬だけビクリと跳ねて、また大人しく私の腕に抱かれていた。
そのまま猫の体と自分の体を洗い、腕に抱いたまま風呂から出た。自分の体を適当に拭いて寝巻きに着替え、濡れた猫を抱いたままドライヤーだけを持ってリビングに移動する。
ソファに座り、猫を膝の上に乗せ濡れてペッタリとした毛をタオルとドライヤーで乾かしてやった。ドライヤーの音を嫌がるかと思ったが、気持ち良さそうに目を細めていた。

全身をしっかりと乾かした猫を見てみると、頭頂から額の辺りの毛量が他より多いことに気づいた。所々白い毛がメッシュのように入っている。
他よりフワフワとしているそこを指先で撫でると、そこじゃないと言わんばかりに頭の位置を指先が顎に当たるようにずらされた。そこに触れられるのはあまり好きではないらしい。
そのまま顎の下をくすぐっていると、くるくると喉を鳴らしながら膝の上で丸くなって眠ってしまった。ズボンに爪を引っかけられている。動く気は全く無さそうだ。

「……お前の名前は、不動、だな。」

眠っているのを良いことに、また頭のフワフワとしている毛を指先で撫でた。
不動は嫌がるように頭を前足の間に埋めて、それでもくるくると喉を鳴らしていた。



20100807




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