※成長注意




最近、不動がよくぼーっとあらぬ方向を見ていることが多くなった。

例えば窓ガラスの向こうの空を見つめて、うっすら口を開いたまま静止。暫しそのまま。そしてふと視線を空から手元に落として、きゅっと唇を噛むような仕種をして、いつも通りに動き出すのだ。
そんなことをした後は、不動は大抵上機嫌に残りの時間を過ごしている。鼻唄を歌い出すことさえある。

不機嫌にぶすくれているよりは勿論良いことだし、何だか幸せそうなので問題はないのだが。
一体何を見てそんな顔をするのか、恋人として気にならないわけではない。

そして今日も、冷蔵庫を開けて30秒ほどぼーっと中身を眺めた後、上機嫌に「買い物行こうぜ」と言った。


鼻唄を歌いながら鶏肉を選ぶ不動を見ながら、俺は不動が上機嫌になったときの共通点を探していた。
家にいるとき。大学にいるとき。公園に散歩に出たとき。こうして買い物に出たとき。場所は関係なく、時間も関係ない。食事中でも、テレビを見ているときでも。特に共通点はなく、俺は首をかしげるしかなかった。

「どうした?鬼道ちゃん」

唐揚げ用の肉を俺の持つかごに放り込みながら、不動は俺の顔を覗き込んできた。綺麗な緑色の目と目が合う。丁度いいので、本人に訊いてみた。なにか良いことでもあったのかと。
不動は一瞬きょとんと瞠目して、悪戯が成功したときの子供のように笑って、

「帰ったら教えてやるよ」

と言った。その笑顔がかわいすぎて、今じゃ駄目なのかという文句は言えなかった。



不動は意外なことに、と言っては失礼だが、料理が上手い。一度レシピを見れば大抵のものは作れるようになってしまう。
材料や調味料の量は全て適当、目分量なので見ているこっちは冷や冷やしてしまうのだが、それでもなぜか美味いものが出来上がる。お陰で計量カップやスプーンはあまり活躍しない。

目の前で鶏肉を揚げる不動に、スーパーでの質問の答えを要求してみた。
不動は首をかしげてしばらく考え込む。肉を揚げる手は止めない。最後の肉を鍋に放り込んで、ああ、と呟いた。

「鬼道ちゃんは何だと思うワケ?」

鍋に向けていた目を俺に向けてまた笑う。思い当たらないから訊いているんだ。そう言えば、不動はますます楽しそうに喉の奥で笑った。

「別に、何もねぇんだけどさ。」

先に油に放り込まれていた鶏が狐色に揚がってきた。不動は油から目を離さず続けた。

「なんにもねぇのが良いっつうかさ、なんか……鬼道ちゃんと居んのが、なんかおかしくて、そんで、」

菜箸が器用に唐揚げをトレーに敷かれた新聞紙へと運んでいく。

「俺が、鬼道ちゃんと居て、こんなに好きになって良いのかなって思って、」

鍋が空になって、トレーがいっぱいになった。隣の鍋に火をかける。

「そんなこと考えてる自分がらしくねぇなって。昔はこんなんじゃなかったのになって。でもさ、悪くねぇなって思うワケ。こんな、平和ボケしたみたいなんでもさ」

ふつふつと煮立ったところで火を止める。唐揚げを皿に移した。

「幸せだな、って、思っただけだよ」

鍋の中のあんを唐揚げにかけた。

「な、鬼道ちゃん。俺さあ、こんなに鬼道ちゃんを好きで、」





いいんですか?


いいんですよ!





20101109
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