今日も今日とて官兵衛は、放り込まれた石垣原の穴蔵を掘り進めていた。掘っては運び、運びは掘っての単調な作業はなかなかに精神と肉体を疲労させる。
幸い官兵衛には頼もしく面白い部下達もいるので気が触れるなどと言うことはないが、それでも退屈なものは退屈である。
そして、狭く外との繋がりの少ない坑道の中、忌々しい手枷を嵌められた官兵衛の暇潰しは、他より限られてしまっている。丁半や花札で春画を賭けた博打を打ってみたり、鉱石採掘競争などをしてみたり、果てはひとり穴蔵の奥、枷に繋がれた珠を転がして手慰みにしてみたり。どれもすぐに飽きてしまう。

「………暇だなァ…」

そして現在も、鍛練にも作業にも飽きて横に転がる珠を磨きながら、官兵衛は見えぬ空を見上げていた。小生のツキの星はどこにあるのかねえ。呟いては愛着すら湧き始めた珠を磨く。坑夫達からサボらんで下さいよ、と抗議が上がるが、今は気が向かない。向かないものは向かない。
そうしてただ時間を食い潰していると、お客ですぜ、と声が掛かった。幾分か不機嫌なそれに、官兵衛は見ずとも客人が誰であるかを察した。具足が石を踏む固い音が聞こえる。

「…何しに来なすった、三成。小生はこう見えても忙しいんだ。帰ってくれ。」
「坑夫どもが貴様なら奥で暇をしていると言っていたが」

なんとまあ余計なことを。渋面を作った官兵衛に、凶王こと石田三成は呆れたように目を細めた。

「刑部が貴様を呼んでいる。来い。」


有無を言わさぬ調子で言い放った三成に、官兵衛はがっくりと肩を落とした。







―――大阪城


「おい、刑部!来てやったぞ!一体何の用…だ……」

態と大声を張り上げた官兵衛は、すぱーん、と景気良く襖を足で開き(三成はその乱雑な動作に渋面を作った)、刑部の部屋に入ろうとした。したのだが、中の光景を見て思わず鑪を踏んだ。ついでに張り上げた声まで尻すぼみになってしまう。

「官兵衛よ、ようやく来やったか」
「おお、くろだどのー」

部屋の真ん中では、蜜柑が山と積まれた炬燵に足を突っ込んで温まっている刑部と、腹まで潜り込んで微睡みながらももりもりと蜜柑の皮を積み上げていく幸村だった。

「何でお前さんが…と言うか、何がどうしてこうなった?」

唖然とする官兵衛を後目に、三成はさっさと炬燵に入り込んで幸村の脇腹を蹴って隙間を作った。

「海神の巫女から送られてきた。われと三成だけでは腐らせる」

言いながらも蜜柑を剥く手を休めない刑部。山盛りの皮の横に二、三枚ほど置かれたそれが恐らく彼の食べた分だろう。剥いた蜜柑の半分を三成に手渡す。確かにこの調子では二人で消化するのは無理である。
後ろに積まれた、恐らく蜜柑の詰まっているであろう箱を大量だなあと呆れ半分に眺めている官兵衛を見て、刑部はこたつむりと化して蜜柑を貪る幸村の足を蹴った。

「やれ真田よ。暗が入れぬぞ」
「む!もうひわへのうほはっは!」
「飲み込んでから喋れ」

親子か、と口に出せば斬滅されそうな突っ込みは心に仕舞ったまま、官兵衛は炬燵に足を入れた。





こたつとみかん



(お、これは甘くて旨い)
(誠でござるか!某も次の蜜柑を………んぐっ…酸っぱぁぁ!!!!)
(ヒヒッ…暗に運を吸われたか)
(黙って食えんのか貴様ら…)



20101102




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