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その日は堅太とキスをしながら抜きあうだけで終わった。
この世界の残酷性について四百字詰めの原稿用紙三十枚にまとめて提出したが玖波那はちゃんと読んでくれなかった。仕方がないので弟様に郵送することにする。
せめて、俺が書き上げてから実家に戻って欲しかった。
弟様はつれないところがある。
猫の置物を持っていってくれた弟様だが丑三つ時に鳴き声がするか聞くべきだろうか。
悩むところだ。
これから俺がするべきはセキュリティの強化とお祓いと触手君の改良を待つことだけだ。
部屋のセキュリティに関しては問題ないがお祓いはあまり効果がないだろう。
なぜなら俺自身が猫の器を作ってしまったのだ。
俺が無意識に降霊術を行ったのだ。これをどうにかするのは無理に決まっている。
猫の置物にくっついて繭崎家に戻ったのなら問題ないが堅太がいる場所が猫の住み家だろう。
まあ、猫の幻聴を目覚ましにするのは問題ない。
触手君の改良は一朝一夕ではないが俺と堅太の性生活に欠かせないものになる。
予感ではなく確信だ。
俺の男性機能が復帰しないとかそういう悲しい話じゃない。
バージョンアップは製作者である彼ら自身の望みでもある。
生徒に協力するのは生徒会長である俺の義務だ。
「陛下! 陛下!! どうぞお納めください」
「繭の君もこれでお喜びになられるかとっ」
「やっほーい!!! 最強のパトロンゲットだぜ」
「バカっ、陛下の前で下品なことを口にするな」
「そうだそうだ」
「頭が高いぞ」
触手君を作っているメンバー以外の生徒も俺が授業中に顔を出すせいで話しに混ざるようになってきた。堅太は死んだ魚の目だ。嫌なのかと思ったら近頃は「せめてかわいいのにしてくれ。グロテスクなのはやめて」とリクエストするぐらいになった。
「堅太の望みは通常時はインテリアになるような部屋に置いても問題のないデザイン。だが機能性は重視すること」
「あれかー、女子がかわいいって言うような、あれかー」
「どれだよ、わかんねえ」
「とりあえず気持ち良ければいいならバイブじゃねえの?」
「機能としてはバイブは必要なのはもちろんだが、ぶよぶよとかぐにぐにした感触は大事だろ」
「特殊素材はお金がかかるからー」
期待されている気がしたので俺は大きくうなずいた。
「金に糸目を付けぬ」
言い切れば歓声が上がった。
堅太と俺の未来がかかった大切な事業だ。
投資は惜しくない。
「陛下、万歳!!」
「永遠様よ永遠に!!」
なぜか胴上げをされそうになったので逃げたら扉が自動的に開いた。
俺が出るのを見越して扉が開くなんて気が利いている。
「これはどういうことだ!」
「木佐木冬空っ、授業の妨害をするんじゃない!!」
現れたのは風紀委員長である玖波那と生徒会顧問の誠氷田。
玖波那が怒っているのは俺が生徒会の仕事をするわけでもないのに授業免除を使っているからではなく手に持っている新聞部の記事が問題らしい。
角刈りは今日も仕事熱心だ。
「熱愛発覚ってなんのことじゃあぁぁぁぁ!!」
玖波那が新聞部の部長に記事を押し付ける。
顔面に記事を押し付けられて新聞部はどうやら興奮しているらしく息が荒い。
周りがドン引きしているが本人は身悶えるばかり。
変態は罪深いと言うのがよく分かる。
「どうしたんだ?」
「言いたくない」
不機嫌な玖波那は珍しい。
頭からっぽで夢を詰め込んでいるはずの角刈りが珍しい。
まだ見てないので俺も内容は知らない。
新聞部の記事はパスワードがかかっているもののネットから見られる。
なので俺はケータイで最新記事にアクセスしてみた。
確認すると玖波那と弟様が記事になっているようだった。
生徒会長も羨むとあるので恋愛と見せかけて交友関係の話らしい。
この前に新聞部の部長と話した内容だろう。
すでに弟様は学園内にいらっしゃらないというのに仲良しアピールって憎らしい。
もっと生徒会長と風紀委員長で記事を作れ。
それ以上に俺と堅太を称えろ。
玖波那がまだ新聞部に何か言っているが俺は関係のない話だ。
拗ねたような気持ちで生徒会室に向かうため誠氷田と共に教室から出る。
誠氷田も暇な奴だと思ったが俺ではなく長谷部先生に会いに来たのだろう。
さっきから視線が先生に向けられている。
堅太が俺を見ていたので投げキッスをしておいた。
教室中が騒然となった。
威力がありすぎたのか堅太は椅子から転げ落ちていたが誠氷田がせっつくので堅太のそばに行けない。
玖波那がいるからきっと平気だろう。
頭を抱えて変な動きをしているが玖波那は玖波那だ。
上手い具合にフォローしてくれるに決まっている。
廊下を歩きながら窓の外を見る。
ちょうど鳥が飛び立っていくところだった。
「努力し続けないと青い鳥は捕まえられないか」
つい呟いた俺に誠氷田が振り返って嘲笑う。
ムッとしていると「青いな」と言われた。
青いどころか枯れている。
俺は若々しくありたい。
数年前まで大学生だった誠氷田に何を言われたところで心にあまり響かない。
誠氷田は十分若い。
だから分かるはずがない。
俺のせつない気持ち。
お前に勃たない男のつらさが分かると言うのかと叫びは喉の奥で殺す。
「手に入れる努力をし続けると幸せは向こうから来るんだぜ、クソガキ」
これが大人の意見ってやつなんだろうか。
溜め息を吐き出そうとした瞬間どこかでにゃーと声がする。
それは猫の声じゃなくて堅太の声に聞こえた。
俺は今更、いろんなことに気づいたかもしれない。
堅太は俺よりも一枚上手だ。
惚れた方が負けならそうなってしまっても仕方がない。
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