青い鳥を手に入れる努力は並大抵のことじゃない | ナノ

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 天利祢を寝室に寝かせた堅太はリビングに戻って来た。
 
 
 
 ちなみに扉は長谷部先生と生徒たちが直してくれた。
 寮の管理人に破壊された扉の修繕技術などないだろうから助かった。
 本来であれば扉が破損したらセンサーで警備員がやってくるが天利祢というよりも俺の部屋に侵入していた宇宙人がそのセンサー部分を壊しているらしい。
 次代の生徒会長がかわいそうになるので俺が卒業するまでにセキュリティを強化していってやろうと思う。
 そのあたりは釣鐘を名乗るあの人がいいだろう。いろんなところに顔が利くのでなんとかしてくれるはずだ。
 天利祢に頼んだら天利祢が入るこむことが出来る部屋に仕立て上げるに違いない。
 信用しないわけではないが先程のやりとりだけで俺と堅太の新居にも等しい場所へ押し入ってくる根性はなかなか常軌を逸している。
 友情とはここまで熱いものなのだろうか。 
 工具を持ち歩いている生徒とネジなどを持ち歩いている生徒の存在は少し犯罪の匂いがするのだが今回は助かったので深く追求することはしない。
 人はこうして寛容さを身に着けるのだろう。
 褒めたら「陛下に褒められたぁぁ」「死ねるぅぅ」「いま死んだら陛下の愛が得られんぞ」「うぉぉぉ」深夜でもないのにテンションが高い。
 部屋に漂う堅太の料理の匂いに奇声を発して飛び跳ねたりする変人たちはもちろん玄関から先には進ませなかった。
 俺の部屋は一般生徒の部屋と違って玄関も大きな作りになっているので何の問題もない。

 そんなことはリビングに戻って来た堅太は知る由はない。
 明日の朝に玄関を見て疑問に思うかもしれないが堅太のスルー力は底知れないのでたぶん俺に聞いてきたりしないだろう。玄関が壊れていようが直っていようが堅太にとってはどうでもいいことだ。これは寝室に鍵がついているからかもしれない。
 
「天利祢は俺ととあのことを家に言わないでいってくれてそれが問題になったらしい」
「そうか」
 
 これは予期していたことだ。
 まさか卒業前に天利祢がこの件で離脱することになるとは思わなかった。
 気にかかることは問題になったのが「どこで」というところだ。
 天利祢の家の中で木佐木冬空に近づく人間を問題視しているのか木佐木の人間が動こうとしているのか堅太の言葉からは推測できない。

「いや、ちょっとよく分かんないけど……なんか、俺の情報を家の内部に置きたくないから家に戻って作業しなくちゃいけないんだって」
「取集された情報はその時にはなんでもなくても後で捏造に使えたり関連付けて問題になったりするからな」
 
 情報を残されると厄介だ。俺がローションを大量に購入した時期に堅太と別れていたと知られたらローションの使い道を誤解されるかもしれない。
 ストックとして買っただけなんだ。堅太がいつ俺の元へ戻っても平気なように準備をしていただけなんだ。
 だが、それで変な勘ぐりが成立できてしまう。
 天利祢は長男が変態的なドSだが才能があるのは間違いない。
 屁理屈が上手い人間だ。
 俺との相性は最悪だが相手も俺を苦手としている節がある。
 
「あ、雨音が枕の盗聴器は壊してくれた」

 寝室に連れて行ったのだからそうなるだろうとは思っていた。
 天利祢は堅太の味方だ。友人とは心強い盾であり剣なのだと天利祢と堅太を見ていると思う。
 堅太も天利祢が困っていたら損得など考えずに手を貸すのだろう。
 羨ましさからハンカチを噛みしめたい。

「……堅太の安眠が妨害されていることに気づかなくて済まない」
「俺も耳鳴りなんて、いろいろあって疲れているだけだと思ってて……盗聴器なんて考えもしなかった。あと、その……弟が悪かった」

 言いにくそうに堅太は頭を下げる。
 視線はクッションに向けられていた。

「弟様は使い物にならない盗聴器をどうしてクッションに仕掛けたんだ?」

 クッションカバーの中に入れられていただけなので部屋に入って座って、ささっと作業は完了だ。
 堅太が夕飯の支度をしていたのなら尚更、気づかれる危険はないだろう。

「約束したから義理を果たしたんだろう。たぶん盗聴器を仕掛けるように頼まれただけで盗聴できるようにしろとは言われていないから……音が聞こえないような状態で盗聴器を仕掛けたんだ」
「律儀だな」
 
 俺は顔も思い出せない以前の親衛隊長のために動く弟様の偉大さに震えた。
 結局、弟様が俺に伝えたかったことは分からないが俺ではなく盗聴しようとしていた元親衛隊長に伝えたいことはこの部屋に盗聴器を持ってきた時点で話は済んでいたのかもしれない。
 
『普通じゃない人間不信者に入れ込んだのが運のつき』
 
 その弟様の言葉は俺に宛てたものじゃなかったのかもしれない。
 俺のことを好きだと思う人間がまず間違っているのは仕方がない。
 堅太を前提にして世界を成り立たせている俺には堅太以外に向ける目はない。
 中学時代ならいざ知らず高校での俺を見ていたら嫌でも気づくことだろう。
 気づくことがないのなら俺のことを何一つ見てはいないことになる。
 そのぐらいに俺は堅太を重要視している。

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