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天利祢の言葉というよりも弟様の鶴の一声でその場は終わった。
弟様は堅太に似て即断即決の方だ。
ぐだぐだ話を長引かせる気がない。
「いま、理事長に連絡したらァ、退学でもなんでもイイってよォ」
「そんなっ、ウソだ!!」
「オマエ、誰に手ェ出したのか分かってんのかァ!?」
弟様はさすがの凄味。指を差し出さないと解放してくれなさそうな勢いだ。
内臓とかも持って行かれるかもしれない。
宇宙人の解剖ならNASAだろうか。
「ホントに理事長の弱み握ってんのかよ〜うえぇぇ〜」
嫌になると玖波那が頭を抱えるが俺はそれは違うというのが分かる。
弟様がこうまで堂々としている時は全部堅太絡みだ。
「ココの理事長はアニキに頭があがらねえンだよ。一時期アニキに飼われてたからなァ」
驚くには値しないのだろう。
俺も言うならば堅太に飼われていた身であり、これからまた飼われるのだ。
認めてしまえば何てことない。俺は堅太が居ればプライドはいらない。
プライドよりも堅太が欲しいから土下座ができた。
弟様は宇宙人に語り掛ける。
「アニキに愛されてたのは『オマエ』じゃなネエの。それを理解してりゃあ、何とかなったかもなァ。アニキはダメな人間の世話をするのを苦だと思わねえからよォ。甘やかして勘違いさせちまう」
ダメな人間という言葉は俺に宛てられた気がする。
そう、俺はダメな人間だ。堅太が居ないとダメなんだ。
誰かに堅太を取られるのは困る。
「残念だったなァ。オレが来なけりゃあ、オマエ、永遠を手に入れられたかもしれねェ。あぁ、そこの生徒会長さんのことじゃねえよォ? アニキの心ってやつだ」
堅太の中で猫が占める割合を俺も周りも誰もが見誤っていた。
そもそも堅太の行動原理を知らない奴だって多い。
弟様の言葉を理解できない人間ばかりだろう。
去年の俺ならきっと分からなかった。
血を吐く叫びを中学の時に聞いたというのに。
俺は忘れてしまっていた。
『家に帰っても……何もない、だって……もう……』
泣き続ける堅太を俺は抱きしめながら永遠を囁いた。
終わらない命はないけれどあまりにも急で、何一つ心構えが出来ていなかった堅太は深く沈みこんだ。
俺は人の悲しみを理解できない人間だったから、流れていく涙がただ綺麗だと思った。
人の感情は煩わしいばかりだったのに堅太のものは触れ続けたかった。
『泣いていれば来てくれる。俺のために鳴いてくれる。なら、俺はずっと泣いてたっていい』
だから泣いている自分を放っておけと答えになっていない答えを返す堅太を俺は抱きしめていた。
そうしないと堅太はどこかに行ってしまいそうだった。
あれが俺と堅太の始まりであり原点。
忘れてはならない猫の話。
堅太が愛した猫の話。
堅太を愛した猫の話。
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