青い鳥を手に入れる努力は並大抵のことじゃない | ナノ

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「なんでだよ、おかしいじゃねえかッ! ケンタを呼べよっ。ケンタは別に気にしてねえ。大丈夫だって言ってくれるッ」
「甘えよォ。オマエ、アニキのことなんも分かってネエ」
「堅太ならいま俺の夕飯の準備をしている」
「オレが困ってるって言えば来てくれるに決まってるっ」
「泣き叫んでるアニキを縛り上げて裸にひん剥いて挿入手前もいいとこだったじゃネエか。アレをなんて言うか知ってっか? レイプだよ、レイプ。強姦。許すわけネエェってのォ!!!!」

 シャウトする弟様。
 首を前後に振るその仕草はもしかしなくても空中に頭突きをしているんだろうか。
 ただの威嚇行動ならいいが頭に上った血を下ろすために頭を振っているなら効果はない。首を痛めるからやめるべきだ。

「……堅太は泣いてたのか?」
「あ、分かンだ? 泣いてネエよ。呆然としてたつーの。泣くわけネエし」
 
 俺が堅太が泣いたことに疑問を感じたのを読み取ったのが弟様からすると嬉しかったらしい。
 以前話をした時もそうだが弟様はどうやら堅太が「正しく見られている」ことに気分をよくする。
 俺としては自分一人のものとしたいが弟様は他人が「正しく」堅太が見られていないと心配だと言った。
 
「ちょっと、ちょっと! みんなであっちこっちで話さないでよぉ〜」
「だーから、アニキの部屋の前でちびっ子がいる。アニキが出てこない。アニキの家はオレの家だから中に入ったら叫ぶアニキの声! は、しなかったけど、オレはアニキに会いに来たわけだからアニキの部屋へ入るだろォ?」
「そうしたらさっきの通りにケンちゃんが縛られてたわけね?」
「あァ、だからオレはそこのガキの股間を重点的に蹴り飛ばした」
 
 自信たっぷりの弟様に玖波那の顔が引きつる。
 弟様は何も悪くないが玖波那の立場からすれば注意の一つも言いたくもなるのだろう。
 風紀委員長とは大変な仕事だ。
 警察を入れることが出来ないとはいえ警備の人間や教師を交えるべきだと思うが大人は簡単に買収されるのでカメラとボイスレコーダーで客観性はあるということで生徒会長と風紀委員長が同席の元、話をするのが通例だ。
 
 生徒の退学を決めるような重大な話は「責任ある生徒」が同席して話しを聞く。
 
 生徒会長、風紀委員長というのは全校生徒あるいは前期の生徒会役員などが決めた人間なので家柄が良かったり、人望にあふれていたり、何より今後の人生があるので責任を背負わされている。
 同じ役員である副会長の孤塚や会計の土並とは違う。
 学生であるのに普通の学生と同じ立ち振る舞いではいけない。
 玖波那はその点、きちんとしている。 
 
「ナァ、角刈り」
「なんだ、クソガキ」
「オレもケンちゃんだって知ってかァ?」
「知ってるよ。うっせぇよ。黙ってろよ」
 
 玖波那が弟様にまさかの暴言。
 風紀室という玖波那のお膝元で無駄に話をこじらせる弟様に怒るのは仕方がないのかもしれない。
 玖波那は角刈りだから弟様もいろいろと思うところがあるだろう。
 これはカツラで引っ張ったらとれるんじゃないか、とか。俺はわりと会うたびに思っている。
 
「で、鯨井青葉……お前は繭崎堅太がお前のことを好きだとか好きじゃないとかは置いといて、こっちの繭崎賢治が言ったように『繭崎堅太の手を縛って裸にして』いたのか?」
 
 あえてレイプ部分は抜いて聞いた玖波那に転入生鯨井は頷いた。
 宇宙人脱却かと思ったが「合意の上のことを他人がとやかく言うなんておかしい」と何処までも宇宙人さを出してきた。
 
「合意なわけない。勝手なこと、言うな」
 
 ここでまさかの天利祢雨音のターン。
 
「堅太くんはビックリしたら黙っちゃうんだ。いつもそうだった。親衛隊からの嫌がらせに何も言わないからみんな、堅太くんは傷ついてないってどんどん酷くなっていって……でも、堅太くんはどう反応すればいいのか分かんなかっただけで傷ついてないわけない」
 
 奥歯を噛みしめて震える天利祢は拳を握りしめて宇宙人を睨みつける。 
 地球外生命体と接触してもきちんと飲まれずに言葉を発することが出来た。
 これは天利祢には小さな一歩だが人類として偉大なる一歩を進めた記念すべき瞬間だ。
 
「よく言った。ちびっ子ォ! アニキはな、思ってもないことを言われると『この人は何を言っているんだ?』ってェ、考えンだけどすぐに考えるのが面倒になって……面倒なこと言ってくる奴らを避けて終わるわけよォ。生粋のサボり魔なんだよォなァ」
 
 堅太と話そうともしないで一方的な通告いや忠告とやらをしていたのだろう以前の俺の親衛隊のやつらは堅太の考えなど知らない。俺と堅太との約束も知らない。


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