青い鳥を手に入れる努力は並大抵のことじゃない | ナノ

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「孤塚と土並か」

 
 副会長の孤塚は中立という名の擁護。
 会計の土並は体格的に抑止力。
 
 転入生である宇宙人は力が強い。
 
 玖波那から逃げようとしたというから驚きだ。
 まだ成長期だというから最終的にどれだけ凶暴な魔物になるのか想像が出来ない。
 もしかしたら別の次元の扉を開きだすかもしれない。
 奴の頭の中ではすでに俺の知らない世界が広がっているので強ち間違いじゃない。
 
「証人として天利祢雨音と繭崎賢治だ」
 
 玖波那が俺のところの親衛隊長と弟様を紹介するように言うので目を向ける。
 所在なさげな天利祢とは正反対に腕を組んだ弟様は貫録がある。
 弟様はいつだって堂々とされている。
 堅太も自分に非がないときは小さくなることもなく堂々としているので案外、似た兄弟なのかもしえれない。
 
「異例のことではあるが生徒会長、風紀委員長、証人たちと第三者という形で聞きとりをさせてもらう」
「聞き取りも何もねえっ。ケンタはオレのことが好きなんだッ!!」
「わけわかんねえこと言ってンじゃネエェ」
 
 このガキがァと宇宙人を蹴り飛ばす弟様。
 さすが弟様、柄が悪い。こういうのがチンピラというんだろう。
 吹き飛ぶ宇宙人に慌てる孤塚。その横で土並はテーブルに置かれた包みを開いてお菓子じゃないことに落胆して肩を落としていた。玖波那は文房具を風呂敷で包みだすからな。勘違いしても仕方がない。
 
「オレは何も悪いことしてねえだろッ! 急に蹴んじゃねえよっ」
「オイオイ、オレの目の前でアニキ襲っといてナニ言ってンの?」

 容赦なく蹴りつける弟様を玖波那が止める。
 
「弟くん、過剰防衛でこちらが悪くなるからさぁ」
「ならネーヨ」
「こーいった贔屓はいけないんだけどね、彼は理事長の親戚で――」
「だから、たかだか親戚程度がなんだっツーの」
「……理事長の弱みでも握っているんでやんすか?」
「急にへりくだったナァ」
「やんすってへりくだった言葉なのか?」
 
 俺の疑問に誰も答えてくれない。
 宇宙人は苦しそうに咳き込む。孤塚はオロオロする。土並は我関せずお茶を飲む。天利祢は意外にも震えることもなく静かに状況を見守っていた。
 気を取り直したように玖波那が微笑みながらもピリピリとした空気を出す。
 器用だな。
 
「まずは天利祢、それと繭崎賢治君、悪いけど説明してもらっていいかなー?」
「おーよ。……まずはそこのチビっ子がアニキの部屋の外の廊下に居るのをオレが見つけた」
「はい、堅太くんが荷物を持ってボクの部屋に来ることになっていたので待っていました」

 初耳だと思っていたら「ボクの同室者は恋人の部屋に行ったきりで……話をしたら別にボク個人の部屋や共同スペースに堅太くんがいてもいいって言ってもらいました」と天利祢が補足するように言った。
 本来はそういった自分の部屋に帰らないようなことは届け出を出さなければ禁止だが今の問題点はそこじゃない。
 
「天利祢を待たせて自分の部屋に一人で帰って来た堅太を襲ったのか?」
 
 俺の言葉に宇宙人は宇宙語で応戦してきた。
 
「ケンタはオレを好きなんだッ」
「どうしてそんな世迷いごとが言える。……お前のことを好きでいてくれる奴はそこに居るだろ」
 
 孤塚を指さすと宇宙人は目を細めた。
 造形として理事長の血族を窺い知れる顔だが頭の中身が理事長とは程遠い。
 人の表情というのは性格が全く反映されないということはない。
 毎日笑っていれば笑い皺が出来るし、眉間に皺を寄せていれば顔にくせが出来る。
 
「なんでも得ようとするな」
 
 宇宙人、鯨井青葉の顔は子供の無邪気さから一転して冷え冷えとした瞳になったがそれが意外ではない。天真爛漫な子供の顔こそが仮面であったかのようだ。今の憎しみを塗りたくった顔は実に似合ったものだった。無言のまま俺を睨みつけてくる今の鯨井青葉なら同い年に見える。
 テーブルをドン、ドン、ドンと三回叩いて息を吐き出した野獣は絶叫する。
 
「得るも何も最初からケンタはオレのだっ。オレの顔に過剰反応しねえし、会ってすぐに荷物の整理手伝ってくれたし、うどんに納豆を入れて怒っても許してくれたっ! 永遠だってオレをケンタから庇ってくれたんだろッ! オレのことが好きなんだったら、そう言えよっ」
 
 口調も声の大きさも言い分だって以前と同じなのだが瞳の色が違う。
 綺麗な透明感がある金緑石ではなく質の悪いくすんだ翡翠。
 感情の高ぶりや照明の効果で瞳の色が変わることはよくある。
 俺の瞳も茶褐色のようでいて光源によって真紅に見えると言われたことがある。
 あるいはどんな状況下かは忘れたがオレンジや赤みがかった黄色にすら見えるという。
 

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