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それからのことは急展開。
俺にとってはいろんなものが芽が出た結果で堅太にとっては寝耳に水。
呆然と懐かしい我が家という表現が適切であるのか不明な俺の部屋。
生徒会長専用の住居は一般生徒用のものとは広さが二倍ぐらいは違うかもしれない。
「……どうしてこうなったんだ」
頭を抱えている堅太に俺はこみ上がってくる喜びや意地悪な気持ちを抑え込む。
ここはまだスタート地点に過ぎない。
去年とは違う。元通りじゃないし、何も始まってない。
「堅太が転入生と同室ではいられなくなって、俺が堅太の作ったものしか食べないなら一緒に生活するのが一番効率がいい。これは風紀委員長も認めていることで俺がきちんと親衛隊に説明もつけている。去年、いいや今まで散々苦労をかけて悪かった」
これはダメ亭主的な発言で俺と堅太が夫婦だったということでいいんだろうか。
別居中の嫁が帰って来たことを喜ばない夫はいない。
抑えようもなく顔がにやけているかもしれないがそれはもう諦めて欲しい。
「俺と一緒にいるのが嫌か?」
長い沈黙の後に堅太は「そういうことが言いたいわけじゃない」と言った。
ならば何が言いたいのか。
そういえばこういった状態になった時に俺は堅太が言わないでいたことを今まで考えたことがなかった。言わないなら言わないでいい程度の大したことのない問題だと放置した。何でもかんでも相手の領域に踏み込むことを俺はしない。堅太もしない。
堅太と俺の会話のなさ。
それは以前、玖波那にも言われた。
俺は大したことだと思っていなかったが共同生活をする上で異常なことでもあるらしい。
「俺は堅太を愛してる」
「そういうことじゃない。そんな言葉で俺を丸めこもうとするな」
「丸め込まれそうなのか?」
「そうじゃないっ、そうじゃなくって……」
現在の堅太は混乱していて落ち着かない。
心理的なショックもあっただろう。
「ごはん、何か食べやすいものをお願いできるか?」
キョトンとした顔の後に堅太は頷いてキッチンへ向かった。
さて、俺がするべきことは一つだ。
堅太が食事を作っている間に済ませてしまおう。
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