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そして、冒頭に戻る。
堅太は鯨井青葉をまるで自分の猫のようにかわいがった。
猫可愛がりというやつだ。
羨ましい羨ましい憎らしい。
頭を撫でてジッと瞳の色を見つめる。
それだけで恋愛や肉体関係になんて進むはずもないが鯨井青葉はどれだけ宇宙人であろうとも堅太に猫認定されているせいで何をしても許される存在に変わっていた。
「永遠はオレのことが大好きだよなっ」
宇宙人の宇宙語に俺の心は疲弊する。
堅太が宇宙人に優しい視線を向けているのが嫌だ。
酷いじゃないか。
俺が堅太を好きなことを知っているくせに、こんなのってない。
俺は風紀宛の書類を手に持ち生徒会室から出た。
堅太がいるにもかかわらず席を外すなんて俺としてはありえない。
けれど、頭が痛い。
ここはもう、玖波那に頼るしかないだろう。
「すぐにお前が助けに行ってたら復縁できたかもしれないのに……なにやってんの」
言われたくないことを言われてしまった。
さすが玖波那、よく分かってる。
そうだな、先を越されたのは油断というよりも欲をかいたからだ。
堅太が俺に抱きついてくれる幻想、それも今では儚い。
「どうして俺が堅太に泣いてなじられて大好きって言われながら抱き付かれたいのか気づいたんだ」
「陛下がサディスティックなお方ってことじゃないのん?」
「違うわ! 俺の感情は堅太以外で動かないんだよっ」
「それはよく聞くから……知ってる……よ??」
「最初は、堅太のこと別に何とも思ってなかった」
「え、ちょっと、陛下……その話し長いの?」
「全部聞け。余さず聞け」
「二人の馴れ初めとか、興味がないっつうか、遠慮したいっていうかぁ〜」
「仕方がない、バカなお前にも分かるように簡潔にまとめて言ってやろう。……俺は堅太の泣き顔に惚れたんだ」
だから、俺は堅太を泣かせることに躊躇がない。
傷つけるのは悪かったと思う気持ちがあるが泣いている堅太には満足感を覚える。
俺は堅太の泣き顔を見て「この顔が見たかった」そう感じていたはずだ。
それこそが今回動くのを遅らせた根本的な原因であり俺と堅太が別れるに至った元凶。
うどんによって得ただろう堅太からの信頼ポイントは転入生に根こそぎ奪われたというよりも紙幣価値がなくなった。
今の堅太の一番は転入生である。それは疑いようがない。
「俺がアイツを超えるにはアイツの目をえぐるしかない」
「やめて、やめて!! そんなスプラッタ展開やめてっ」
「目が見えなくなったところで堅太が甲斐甲斐しく介護するのが目に見えているからやらねえけどな」
「陛下また、ちょっと言葉が乱れてますよ。口汚いのはおよしになって」
「玖波那は相変わらず芝居がかっているか適当な口調だ。一定しないのは何故だ」
「真面目な空気にならないように気を付けつつ軽くなりすぎないようにしてんの」
気を遣える男をアピールして堅太に取り入る魂胆らしい。
玖波那は食えない奴だ。
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