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そして、体育倉庫に辿りついて見たのは転入生が伊須を殴り飛ばしていて堅太がそれを止めている光景だった。
堅太が仕方がないなといった顔で転入生の頭を撫でる。
照れ臭そうな顔をする転入生の握りしめた拳を解かせた。
『伊須、先輩に悪気はなかったんだと思う責めないでやってくれ』
この言葉は先輩じゃなくて悪いのはお前だと言外に伝えているのだが通じないらしい転入生は「そんなわけねえだろっ。ケンタのこと閉じ込めたんだッ! 許せねえよ」とお怒りだ。
ちょっと黙ってろよ、堅太が話してるだろと思ったが予想外に堅太は転入生の頭を撫でながら「心配してくれてありがとう」と微笑みかける。
そして、俺はついに耐えきれずなくなって現場に突っ込んでいってしまった。
堅太に褒められるこの位置に居るのは俺のはずだったのに!
どうしてこうなった!!
玖波那が以前「そういう腹黒いとこがケンちゃんに嫌われたんじゃない?」と言っていたのを思い出す。
転入生はバカ丸出しだが腹黒さはない。だからといって、コレはない。頭からっぽの奴の方が俺よりもいいなんてそんなことありえない。
その時、俺は堅太が「にゃー」と言ったのを聞いた。
そして、転入生の何を見ているのか理解して怒りが吹っ飛んだ。
思い出したのだ。
俺が堅太を気になりだしたそもそもの理由。
俺が恋に落ちた原因。
堅太が俺に毎日笑いかけてくれるようになった理由。
堅太に告白した時のこと。
忘れるべきではなかった大切なこと。
俺は堅太の愛を勝ち取って驕り高ぶり忘れてしまっていた。
堅太の最愛とも言える忌々しくも愛おしい、猫の存在。
転入生の瞳は猫と同じ色をしていた。
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