青い鳥を手に入れる努力は並大抵のことじゃない | ナノ

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「俺が予言してやろう。堅太の返事は間違いなくNOだ。そして、お前との友情関係も終わりだな」

 不快気な顔をする伊須海夢に告げる。
 
「お前の親衛隊が堅太に何かしたのだろう。だから、堅太が教室から出て行ったきり戻って来ない」
 
 目を見開いている伊須《いす》海夢《かいむ》は想像もしていなかったらしい。
 自分がサッカー部のエースであり部をこれから背負っていくことを期待されている人間だという自覚が足りない。
 ちなみに俺は生徒会長という自覚はあってもそれ以前に堅太の恋人である木佐木冬空なので親衛隊の暗躍は無視していた。
 以前、玖波那が親衛隊を姑と称したが俺からすればティッシュ程度の存在が俺を生んだ人間を騙るなどおこがましいにもほどがある。
 ティッシュどころか毒蛇だったのは俺の前と堅太の前で見せる顔が違っていたのを見抜けなかったというかそこまでの興味を持たなかったことの弊害だ。
 堅太以外のことに興味がなさ過ぎて中学の頃は人の名前を全部、堅太に聞いていた。
 生徒会長をするようになってそんなわけにもいかなくなったが同室でなくなった俺にも堅太は優しくカンニングペーパーを作って俺の興味のない相手との会話を助けてくれた。
 
 堅太は俺をよく理解していた。
 だから俺も堅太を理解していくべきなのだろう。
 
「犯人はお前の親衛隊長、サッカー部のマネージャーだったか? 今年卒業の三年だというのにお前のために人生を棒に振ったな」
「んだよ、それ……脅しにならねえから。まゆまゆに制裁とかやめてってちゃんと頼んだのに」
「頼めばいいのか? 頼んだら何でもやってくれるほどお前は親衛隊の人間に何かを与えているのか?」
「あんたみたいに肉体関係結べって? ありえねえし。オレはまゆまゆ一筋で――」
「愛を理由に怠惰を行うな。お前が練習を休むのもお前が試合に出ないとわがままを言うのも堅太のためじゃない、自分のためだろう。愛を理由にして堅太を縛りあまつさえ他者からの攻撃対象にするな」
 
 まあ、俺は堅太を攻撃対象にさせて俺に頼ってくれるのを待っていた男だがこの企みは失敗に終わった。自分を棚に上げているのではなく先人の苦い思いは教訓として生かすべきだと俺は言える。
 人の振り見て我が振り直せというのは大変ためになる言葉だ。
 俺を批難すればするほどに伊須海夢の言葉は己に返ってくる。その自覚はあるのだろうか。
 
「まったく、お前はなんなんだ」
 
 伊須《いす》海夢《かいむ》という名前通りサッカー部の人間から「お前の席ねえから」と言われたいんだろうか。エース剥奪どころか退部だってありえるような素行不良になっていると気づいていない。
 俺は生徒会からそう言われて会長を辞任したかったが目の前の伊須海夢はそうじゃない。
 自分がしていることの重要性が見えてない。
 元々は謙虚で周りに気を遣える爽やかなスポーツマンだったということだから堅太が自分になびいてくれないことに内心で激怒しているのだろう。
 
「堅太が自分に簡単に惚れるなんてバカみたいなことを考えるなんて、どうかしている」
 
 俺だって苦労したんだと懇々と説いてやりたい。
 外見的な意味で俺より見劣りしている伊須海夢に堅太が落ちる必然性がないことがどうしてわからないんだ。
 ナルシストもいい加減にしろ。
 
 
「あの、会長様」
 
 
 俺が堅太への愛に燃えていると眼鏡の一人が話しかけてきた。
 時計をチラッと見ている。
 
「あの、繭崎くんのところに行かなくていいんですか?」
 
 確かに堅太が閉じ込められているのだとすれば伊須海夢などと話していないで助けに行くべきだがちょっと焦らしたい気持ちもある。
 きっと堅太はかわいく俺に抱きついてくるかもしれない。
 
「さっき、転入生が教室に来て繭崎くんのことを聞いて飛び出していって」
「なんだと!?」
 
 まったく気づかなかった。
 俺の対人レーダーは堅太にしか活用されない。
 堅太以外に反応を示さないので転入生が教室に来たことも眼鏡たちと話していたことも知らない。
 人に興味を持たなすぎることを反省してニュー俺になったというのに失態だ。
 
「転入生は堅太がどこにいるのか知らないだろうから……」
「いえ、体育倉庫が怪しいと伝えておきました」
 
 余計なことをする眼鏡だ。
 俺への裏切りじゃないのか。
 堅太への忠誠心か? それは愛か?
 
「サッカー部のマネージャーがしたのならそこが妥当だからな」
 
 と言っている間に伊須海夢も消えていた。
 一声かける礼儀もない。
 
「会長様、早く行かないとっ」
「陛下! この場合、残り者に福はありません」
 
 残り者ってなんだ、残り者って。
 俺は取り残された人間なのか?


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