青い鳥を手に入れる努力は並大抵のことじゃない | ナノ

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 その日、俺は放課後の日課である堅太の見守りに意気揚々と廊下を歩いていた。
 堅太は授業が終わってもすぐに寮に帰ったりしない。
 のんびりと帰りの支度をして友人である天利祢《あまりね》雨音《あまね》と話したり時には出された課題などを教室で終わらせようとしている。
 部屋に帰るのが嫌なのか自室では勉強がはかどらないのかもしれない。
 教室に完全に人気がなくなる前に自習室や図書室に立ち寄ることもある。
 俺と堅太が一緒に暮らしていた時は俺が帰宅した時に堅太がいないことはなかった。
 常に夕飯の支度がされていて風呂の用意も万全だ。
 部屋はいつでも清潔だったし俺が帰ってきたら玄関まで出てきて「お帰り」と言って鞄を手にする。
 制服から部屋着に着替えてるのだって堅太の手助けの上だった。
 玖波那にこの件を話すと「新婚すぎる」と言われたが実は中学の時に同室だった時から堅太はこんな感じだった。
 俺のこの付け加えに玖波那はなぜか拗ねていた。
 
 ともかく、放課後は生徒会長としての仕事はもちろんあるが俺にとって堅太を見つめる時間だ。
 
 一年の夏休み明けは堅太に直接アプローチをかけていたが今はただ静かに見つめている。
 堅太の行動範囲は多少広いが法則があるのでどこにいるか見つけやすい。
 クラスメイトに何か誘われたりしない限り、いつも同じような行動をとる。

 ただその日、堅太の教室に行くと堅太はいなかった。

 俺の親衛隊長である天利祢《あまりね》雨音《あまね》の姿もないので友人同士トイレにでも行ったのかもしれない。
 そう思うのは堅太と天利祢雨音の鞄が残っていたからだ。
 
「会長さぁ、まゆまゆのストーカーやめてくんない? マジ、振られても未だに粘着とかありえないでしょ」
 
 そう言ってきたのは近頃堅太を口説くのに熱心だという伊須《いす》海夢《かいむ》。
 サッカー部のエースらしいが堅太にのめりこみすぎて練習を疎かにしていると親衛隊から情報が入ってきている。
 伊須海夢は堅太が練習試合の応援に来ないなら出場したくないとまで言っているらしい。
 意味が分からないが要は脅しだ。
 堅太に自分を見てもらうために周りを使って圧力をかけている。
 俺が言えた義理ではないが三流の手法であり堅太に一番嫌われるやり方だ。
 正々堂々、正攻法が一番堅太に好まれる。
 素直な人間を堅太は嫌えない。
 
「同じ言葉をお返ししよう。堅太に振られているにもかかわらず堅太の前の席に居るというだけで堅太の心を代弁するような発言はよせ。堅太が俺をストーカー扱いすることなんかない」
「まゆまゆは会長のアプローチに困ってますぅ。そんなのも分かんねえわけ?」
 
 空気読めねえのと吐き捨てられたが俺が伊須海夢が顔を合わせるのは初めてだ。
 初対面とも言える俺に随分な口の利き方をする。教育がなってない。
 
「サッカー部のエースであることに未練はないんだな」
「はい? なにそれぇ、脅し? ありえないんですけどぉ」
 
 口調に苛立ちを覚えるのはアホっぽいからだろうか。
 いいや、堅太を知ったような口で語るところが俺を煽っている。
 
「別に練習なんかでなくたって試合の実績残してるし、練習試合だって何だかんだで出てるし」
「駄々をこねてるんだろう。子供のように」
「オレさぁ、まゆまゆのこと結構マジなんだよね」
「お前は堅太に八割ぐらい嫌われてるけどな」
「はあ? なに言ってんの、そんなわけないじゃん。これからでしょ」
「そう思ってんなら、お前は堅太を何一つ理解してないっていう証拠だ」
 
 吐き捨てて俺は教室から出ようとしたが以前食堂で見かけた眼鏡の三人組がこちらを見ていた。
 俺の親衛隊員だから俺を見ているのは当然だ。三人とも興奮している。
 いつもなら声をかけるなどありえないが俺の直感が閃いた。
 
「堅太が教室から出てどのぐらい経った?」
 
 単刀直入にたずねるとハッとした顔をして三人とも時計を凝視する。
 先程までと顔色が違う。
 震えた声で「三十分ほど前です」と口にする眼鏡の一人。
 続いて「天利祢隊長は授業が終わってからすぐに何処かへ行きました」と痒い所に手が届く付け足し。
 堅太に何かがあると天利祢が察知して潰すつもりだったが巻き込まれたか、間に合わなかった。そんなところだろう。
 そして、ふとまだ教室にいる伊須《いす》海夢《かいむ》を見る。
 
「練習にも行かないで良いご身分だな」
「生徒会の仕事してない会長に言われたくないんですけどー」
「残念ながら仕事はしっかりやっている」
 
 堅太との触れ合い不足で仕事をしないで会長を辞めたいなんていう気持ちはやっぱりちょっとあるが俺は比較的真面目に会長をしている。
 そして、各委員会の委員長たち、学内でも上位に位置する人間たちに言ってやった。
 
『俺が有能ぶりを如何なく発揮して嬉しいか? 嬉しいに決まっているだろうが、感謝するのは俺にではなく繭崎堅太にするだな。お前たちが俺の才能を垣間見ることが許されたのは堅太が愛らしいからだ。愛らしい堅太のためには俺も格好よくならなければならない。つまり、そういうことだ』
 
 言い切った俺に拍手が送られた。もちろん「感謝は堅太にするように」と再度言って会議を進めた。
 以前の俺ならそんなに話すことないから適当でいいだろうと頭を使うことなくこなして各委員会の委員長に緊張感を与えるために適度に遅刻したり早く来たりして遊んだものだがニュー俺として会長をしている今の俺は真面目だ。
 問題になりつつ先送りになっていた物事に切り込んでいく。
 やりだすと止まらないので俺が卒業までに食堂は後、二つほど追加されるはずだ。
 複数の食堂案は何代か前の会長と会計の間で立ち上がったものらしく現実的な計画だったのだがその後に計画を引き継いだ後輩の会計が不真面目であったらしく予算を割くことをしなかった。
 そのため宙に浮いたままだった食堂の複数化。
 現在の食堂はそのままに新しく庶民的な大衆食堂と高級志向のレストランを作る。
 生徒の利用層がばらけることによって食堂内で起こる問題も少なくなるだろう。
 外部生と中学からの持ち上がりが顔を合わせて地味に対立するのが食堂だったがこれからはぶつかり合いも減るだろう。
 
 細かいことはいい。
 俺がちゃんと仕事をやっているという話だ。
 夏休み明けに驚け伊須《いす》海夢《かいむ》。
 工事は夏休み中に行う予定であり人員の募集も始めている。
 
「オレはまゆまゆ待ってんの。あんたんところの隊長、アメちゃんが邪魔してくるからまゆまゆがオレにYESの返事をくれないんだよ」
 
 天利祢《あまりね》雨音《あまね》は予想よりも優秀らしい。
 気弱でいつも怯えている姿からは想像できないぐらいに堅太に関することになると頑固で俺に対してすら偉そうな物言いをするがだからこそ信頼できると踏んで隊長に任命していた。

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