青い鳥を手に入れる努力は並大抵のことじゃない | ナノ

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「あ、あぁ。こっちだ」
 
 あえて堅太を無視して困った様子のウエイターを手を挙げて呼ぶ。
 基本的に注文をする機械端末は二席に一つの割合で設置されている。
 俺は注文を眼鏡の三人組が座る場所からしたのでウエイターは戸惑ったらしい。
 眼鏡の三人組は食べている最中で自分たちが注文したものではないのでウエイターに注意を払わないからな。
 
「堅太、きつねうどん……だが、食べるか?」
 
 堅太が注文していたのはどうやら月見うどんであるらしかったが、三人組から説明を受けた際、うどんとしか聞いていなかったので、ついきつねうどんを頼んでしまった。孤塚のせいだ。あのきつね男。
 失態だと思いつつ見れば堅太の表情が変わった。
 何も興味なさそうな無表情ではない。
 綺麗なものを見た時の花咲くような嬉しそうな顔。
 俺はちゃんと正解を引いたらしい。
 
「席変えるか?」
 
 無言でうなずく堅太に俺は席を入れ替える。
 うどんもちゃんと堅太にはきつねだ。
 転入生はもう堅太の腕を掴んでいない。
 なんだか俺を見ている気がするがどうでもいいことだ。
 俺の容姿に見惚れる人間は珍しくない。
 
 堅太がさっきまで俺が座っていた席に座り俺が注文したきつねうどんをふーふー冷ましながら食べている。
 
 メチャクチャかわいい。
 満足そうに出汁を飲み目を細めている。
 俺はそんな堅太を見ながら納豆が投入されたらしい月見うどんをすする。
 粘ついてぬるくなっているが堅太が食べていた箸を使っているのだと思えば味は全く気にならない。
 椅子だって堅太が温めた椅子だ。興奮する。
 
 
 俺はいろいろと堅太の行動を振り返ってみて考えた。
 どうして堅太が俺に別れを告げたのか。
 あんなに愛し合っていたにもかかわらず、だ。
 
 それは今回のことと同じなのだろう。
 
 堅太はうどんに納豆を投入されて本来食べたかったうどんの味が破壊されても怒ったりはしない。
 怒りではない。あの無表情は怒りが通り過ぎた後の何もない状態だ。
 ただ堅太は興味がなくなったのだ。
 これは俺自身、自覚するのは痛みを伴うのだが堅太は大切なものが壊れたり汚されたり、大切だった状態から変化した時、悲しいとか苦しいとか通り越して無関心になる。
 
 俺は大切なものが汚されたら怒り狂って相手を徹底的に追い詰めて精神崩壊を引き起こしたら治療させて治ったところをまた叩くぐらいしたいが堅太は違う。
 そんな労力をかけるのは無駄だと思っている。
 省エネ型だから身長があるのに細いのだろう。
 
 時間をかけて頑張って愛情を込めて作った料理。
 それに対してマヨネーズをぶちまけられると、マヨネーズをかけた人間やマヨネーズに対しての感情よりも何より料理に対して感情を失う。
 作り上げて愛着があり美味しいだろうと思っていた料理もどうでもよくなる。
 納豆が投入された段階で食べる気がなくしたうどんのように俺は自分の行動によって堅太から愛情を消してしまった。
 俺の言動は堅太にとって許す許さない以前の問題で納豆が入った月見うどんと同じで見向きもされないものになった。
 どんな行動を俺がとったところで堅太の中には響かない。
 それは堅太が悪いわけじゃない。俺が作り上げてしまった現状だ。
 
 俺は幸せの青い鳥を飛べないように風切羽をカット、クリッピングをするつもりだったが実際は鳥の姿を見誤り無駄に綺麗な羽を傷つけて逃がすことになってしまった。
 
 逃げだされたままでいるつもりなんかない。
 幸せは俺のものだ。
 堅太は俺の隣にいるべきだ。
 
「美味しいか?」
 
 俺がいることに今更気づいたような顔をして堅太は少し恥ずかしそうな顔をしてから無言のまま頷いた。
 赤く染まった目元や少し俯いている首の角度がかわいい。
 
 堅太は俺の用意したうどんを口にした。
 それはつまり、納豆が入ったうどんに用はなくても新品のうどんは堅太の求めたものであるからOKが出たということだ。
 なら、俺は堅太との関係を一からやり直す必要があるのだろう。
 どうでもいいと思われてしまった俺に固執する必要はない。
 以前の俺ではない俺。
 
 つまりは……、玖波那が言った通りに生徒会長を頑張るべきだろうか。
 

 俺は会長職を本気でやっていなかった。
 適当な発言で適当な行動でなんとかなっていたのだ。
 人からの評価は気にするがそれに縛られる気はさらさらなかった。
 ただ、大多数の普通の人間にとって俺の行動がどんな風に評価されるのかだけは知っているべきだと感じただけだ。
 
 俺が以前と違って心機一転していると知らしめるために必要なのは――。
 
 そこまで考えて隣から服を引っ張られる感触に気づく。
 熱視線は無視していたが「あの」と呼びかけられても無視するのは、別に構わないだろう。いつもの俺なら無視していたので問題ない。顔が整っているぐらいで驕り高ぶられても困る。
 いつもの俺なら「気安く触るな」ぐらい言い放っただろう。うざったいので。
 だが、新しい俺、ニュー俺なので視線だけ向けてやる。
 隣に堅太がいるのに転入生を視界に入れてやる俺の慈悲深さに感謝しろ。そして、手を放せ。
 
「ありがとうなっ! オレのために!!」
 
 はにかみながら言われた。
 コイツは何を言っているんだ。
 宇宙から変な電波でも受信しているのか。
 そう思いながら俺は少し眉を顰めてうどんをすすった。
 

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