青い鳥を手に入れる努力は並大抵のことじゃない | ナノ

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 副会長の名前は孤塚という。
 なるほどキツネかと思ったが微妙に字が違うのでイラつく。
 この孤塚は頭は悪くはないがずる賢いキツネのような奴だ。
 一重で切れ長ではあるが目が細いわけではない。
 和服が似合いそうな日本美人というタイプの顔つきだ。
 首が細く全体的に華奢な印象がぬぐえないので抱きたいと言われる人種だが孤塚はタチだ。
 そして結構、趣味が悪いとも聞く。

 孤塚の特徴は一言でいえば八方美人の風見鶏。

 複数の人間を恋人のように扱っている。
 特定の相手は居ないらしい会計や書記のセフレたちとは話が違う。
 恋人が複数ってそれは多重婚のようなもので不健全だ。
 玖波那に言わせると誠意の欠片もない最悪の行為なので近いうちに刺されるかもしれないという。
 そんなことまで把握しているなんて風紀はお疲れ様だ。
 
 孤塚の寿命が秒読みであることは俺にとって問題ではない。
 
「あ、会長。さっきあなたの愛しの彼に会いましたよ」
 
 と、孤塚が分不相応なことを言い出したのが問題だ。
 副会長だから転入生に関することを丸投げしたがどうやら寮の部屋まで案内して同室である堅太と会ったらしい。
 
「繭崎君は青葉の荷物を一緒に片付けてくれるみたいでしたから今から食堂で会えるかもしれませんね」
「お前、ふざけてるのか?」
「べつにあなたの繭崎君には何も――」
「どうして転入生の荷物整理を手伝ってやらなかった」
「はい? え、だって、私は副会長で……」
「副会長はそんなに偉いのか? 神なのか? 何一つ肉体労働をする必要がない殿様か?」
「そんなこと思ってませんけど」

 俺は立ち上がり深い溜め息を吐いて孤塚を見る。
 かわいそうな程に萎縮した孤塚は大型の猛禽類に見つからないように身体を小さくさせているキツネだ。
 どれだけ哀れさを醸し出そうと俺の感情は動かない。
 むしろ逆に燃え滾っているからこそわざわざ孤塚などと会話をしている。
 燃えているなら感情は動いているのかもしれないが、それはそれだ。
 業務連絡以外は口を開くのは億劫だが堅太のことに関しては別。
 俺が言わずに誰が言う。

「お前が堅太の代わりに転入生の手伝いをするべきだろう」 
 
 俺の発言が聞き取れなかったのか孤塚は間抜けな声を出して俺を二度見した。
 仕方がないのでもう一度言ってやる。
 
「堅太の手を煩わせるな、クズが」
「な、なんで、そんな」
「お前が生徒会室に帰って来てしたことは何だ? お茶を入れてお菓子を食べて転入生の容姿と人柄を褒め称えて時計を見ただけだ。そんなことをしている時間があるなら堅太を助けるために活動していた方が有意義だろう。自分が副会長だと言うのなら生徒の役に立ってこい」
 
 俺の正論に混乱しているのか涙目の孤塚は足を震わせている。
 孤塚は本当に自分本位だ。
 お茶も菓子も自分の分しか用意しない。
 まあ、用意されたところで俺は絶対に手を付けないがな。
 
「でさ〜、行くの? 食堂」
 
 手を挙げて尋ねてくるのは会計の土並。
 二メートルの巨体に反して素早い動きをする土並のことを俺は評価している。
 球技大会で土並と出ると無駄に体を動かすことなくいい感じに活躍できる。
 俺は人から評価されることなど、どうでもいいと感じているように見えるらしいが違う。
 周りからの評価が高くなればなるほど俺の価値は当然高められる。
 正直、生徒会として義務と権利に雁字搦めにされるのはうんざりではあるが俺の評価が高ければ俺に愛される堅太の価値だって上がる。
 俺のことは俺だけの価値にはならない。
 だが、堅太のそばにいられないのなら一旦俺の価値を故意に下げてしまってもいい。
 大切なのは俺と堅太が愛し合うことだ。
 俺は堅太のそばを離れて生きるつもりなんて全くない。
 玖波那には卒業までと言ったものの本当ならすぐにでも堅太を抱きしめに行きたい。
 それは新しく親衛隊長にした天利祢雨音に止められているので陰ながら見る毎日だ。
 生徒たちは俺の気持ちを汲んでくれているのか俺の堅太の見守りタイムを邪魔することなくそっとしておいてくれる。情けない姿に愛想をつかしてくれるともっといいのだがいい笑顔で「陛下応援しております」とか臣下の鑑のような奴ばかりだ。俺に調教された結果だろうか。邪魔にならずにいようと持っている、その心意気やよし。
 人の恋路を邪魔する人間はまとめて馬に蹴られて死ぬといい。
 
 

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