青い鳥を手に入れる努力は並大抵のことじゃない | ナノ

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「俺もケンちゃんと同じクラスが良かったわ」
 
 玖波那《くなみな》翔悟《しょうご》、風紀委員長だ。
 がっしりとした体格に端正な顔で角刈り。
 強面で恐れられそうなところだが愛嬌があるので怖がられているところはあまり見ない。
 伊須と種類は違うが人気の在り方は似ている。
 玖波那は兄貴分のように慕われていて伊須はやんちゃな弟のように思われている違いはあるが、二人とも体格が大きく強そうだったが恐怖を感じさせない。
 俺は身長が高い人が嫌いということはないがやっぱり見下ろされるのは好きじゃないし、押さえつけられて力で反抗できなくなりそうな相手には無意識に警戒する。
 元恋人である彼は初対面の時は俺よりも身長が低く成長期も中学の後半に入ってからだった。
 生徒会に入って会う時間が減ったと思ったら彼は急に大きく立派に育っていて驚いたものだ。
 今も彼は俺よりも身長が高いとはいえ、玖波那や伊須ほど圧倒的な身長差を感じたりしない。
 
「合同は体育だけとかなあ〜、さみしいよぉ〜」
 
 ダルそうな顔をする玖波那。
 ガテン系にしか見えない玖波那だが意外なことに身体を動かすのが嫌いらしい。
 プロティンを飲んで身体をきちんと作っているらしいがスポーツメーカーの友人の頼みでデータを取っているだけで自分の肉体美を極めているわけではないという。
 玖波那はよく俺に堅物で律儀すぎると言うのだが玖波那だって食事メニューから全部、そのスポーツメーカーの友人の指定通りのもので過ごしているのだから人のことを言えない。
 
 玖波那との付き合いは中学で同室になったことから始まる。
 木佐木冬空が生徒会に入って俺の同室者は居なくなった。
 そこに何故か玖波那が転がり込んできたのだ。
 同室者とトラブルがあったらしく木佐木冬空とトラブルを起こすことなく同室者でいられた俺なら玖波那も大丈夫だろうという判断らしい。
 俺に拒否できるわけがなく、一人の生活も淋しいので玖波那の明るさには救われた。
 最初の木佐木冬空と同じように初めの数日は良好とはいえない関係だったが打ち解けてからは毎日が騒がしく楽しかった。
 玖波那は人気があるものの性的対象として見るような人気ではなく盛り上げ役、ムードメーカー的な人気だった。
 その場に玖波那が居れば空気は明るくなるし、争っているのがバカらしくなる。
 緊張感のある空気を破壊するのが上手い。
 
 玖波那が風紀委員になったのは俺が元恋人である彼と付き合い始めたから、かもしれない。
 
 俺に対する親衛隊の制裁は過激さを増し、雨音は元より玖波那に心配をかけることは少なくなかった。
 彼の部屋に入りびたりそのまま生活をする俺と中学から変わらず同室だった玖波那だったが風紀委員になり、即座に委員長にまでのし上がった彼は役員部屋に住み家を移した。
 生徒会長である木佐木冬空の向かい側の部屋に住む玖波那《くなみな》|翔悟《しょうご》。
 たびたび木佐木《きさぎ》冬空《とあ》の部屋に来て俺の料理を食べて帰っていく。
 暇ならお願いと合鍵を渡されていたので同室であった時のように部屋の掃除をしたり洗濯や簡単に食べられるものを作り置きしたり勝手に玖波那の部屋を使っていた。
 今にして思うと帰ってこない恋人を思って情緒不安定になっていた俺にちょうどいい気晴らしだったのだ。
 
「お前と俺では体力が違うから……組むのは難しいな」
 
 少しだけ離れたところに雨音がいる。
 二人一組となったら俺は雨音と組むだろう。
 伊須が俺を誘ってくるだろうが体格的にも玖波那と組んだ方が問題が起きないはずだ。
 こうやって話が出来るのもわずかな時間だ。
 本格的に授業が始まったら離れないといけない。
 教師がたまたま来るのが遅れているのでみんなそれぞれ雑談して時間をつぶしている。
 元恋人である彼がいないのは生徒会長としての仕事の関係だろう。
 年度の始まりは何かと忙しいらしい。少なくとも去年はそうだった。
 
「一年の時はもっと合同授業あったのにねえ」
「二年は選択授業が多いな。あまり玖波那とは被らない」
「パソコン系の授業とってたっけ? 俺は無理だわ」
「人工知能を作ったりロボットの制御系統のソフトの開発、夏休みの課題はフリーソフトを作り上げてDL数を競うものになるらしい」
 
 基本が自習でどれをどんな風に極めてもいいが成果を出せばいいという教師の指導の下、自由度の高いことをしている。
 ロボットに関しては外側を作る工作班と動かすためのプログラム班で別れているがメカおたくや機械好きの集まりなので教室での息苦しさがない。
 彼らは総じて人間に対する興味よりも目の前のロボットがきちんと動くかどうかを考えている。
 俺に関する噂話よりも俺が作り上げるプログラムにバグやミスがないかの方が重要なのだ。
 
「楽しいんだ」
 
 良かったと玖波那は笑う。
 犬の笑顔とでも言うのだろうか猫の愛くるしさとは違う撫でて構いたくなる顔をする。
 だから俺は玖波那の世話、家事の一切を引き受けても苦にならない。
 玖波那が笑顔で礼を言ってくれるだけで報われる気がする。
 
「それ、でさ……新しい同室者の話は聞いた……かな??」
 
 めちゃくちゃ言いにくそうに玖波那が聞いてくる。
 同室者、転入生がやってくるというのは先日聞いた。
 俺が頷くと玖波那は弱った顔で「問題が起きるかもしれなくって、ね」と肩を落とす。
 巨体を小さくする玖波那に俺はこの学園で転入生となれば大なり小なり問題が起こるのは仕方がないと伝える。何があっても玖波那のせいじゃない。
 
「ケンちゃん、本当に危なくなったらちゃんと避難してね。約束だからね!」
 
 玖波那は涙目だ。
 避難と言うのは玖波那の部屋にだろう。
 玖波那の部屋の鍵は変わらず持っている。
 
「転入生はそんな危険人物なのか?」
「超絶美形……らしい」
 
 目の前が暗くなる。
 表情が固まった俺を心配したのか玖波那が何度か「ケンちゃん」と俺を呼ぶ。
 美形にまつわる様々なことが俺にはトラウマになってしまっているかもしれない。
 人格的に問題がなかったとしても美形は美形であるだけである種、環境破壊兵器だ。
 
 俺に平穏はあるのだろうか。
 

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