青い鳥を手に入れる努力は並大抵のことじゃない | ナノ

  3




「言わなくても堅太は俺の言いたいことが分かるからな」
「良妻だよね、知ってる」
「堅太は過度に干渉するとヤドカリみたいになる。あれもかわいいがな」
「え? 具体的に例を出してみて」
「布団をかぶって出てこなくなる」
「だから、何したんだ。何してそうなった!」
「過干渉だ。ぎゅっと抱きしめてずっと手を握ってたり」
「スキンシップ過多っ! 会話はどこ行ったッ」
 
 玖波那は「陛下、ダメだ。想像以上にダメだ」と言われた。
 
「俺様で照れてケンちゃんをそんなに大事にしてないのかと思ったらそこまでラブラブしておいて浮気とかないわ。マジでないわ。ケンちゃんのショック半端ないわ。俺、泣きそうだよ。貰い泣きだよ」
「泣け泣け。貰い泣きということは堅太が泣いたということだ」
「なんで、そこで笑顔なの! 陛下のがサタンじゃん。血も涙もないよ」
「俺は堅太に泣いてなじられて大好きって言われながら抱き付かれたい」
「それで取る手段が浮気は間違ってるでしょ。夜景の見えるホテルとかロマンチックなムードでも作って甘い言葉を吐き出せばよかったって」

 さすがは玖波那。キングオブ普通人。見た目はそこそこ整っているが角刈りの頭のせいで総合的にマイナスで人当りがいい脳みそ筋肉男だが感性が一般的だ。親衛隊などという蛇ではなく玖波那に相談するべきだった。
 
「堅太は表情や感情があまり動かない性質だろう」
「確かにぼんやりしてるね、ケンちゃんは。……だから、陛下なんかに捕まっちゃうんだよね」
「俺なんかってなんだ。俺に愛し愛されるのは至上の愉悦だろうが!」
「とにかく、ケンちゃんにアプローチして復縁を迫るにしても嫌われないやり方にしてね。そして、会長辞めるとか無理なのはマジやめて。俺以外に言わないで」
 
 念を押されるが噂を流して事実上の辞職みたいなことは出来ないだろうか。
 生徒の三分の二の署名が必要なリコールとか。
 
「陛下が会長を辞める原因がケンちゃんにあると分かったらケンちゃんに迷惑が行くって分かるよね?」
「分からなかった」
「素直ないいお返事。…………陛下はもっとケンちゃんのこと考えてあげてね。マジで」
「堅太のことは考えすぎるぐらいに考えている。具体的に言えば堅太の耳を福耳にしよう計画を俺の中で立ち上げている」
「あー、なんかケンちゃんの耳をいじってる陛下をよく見る気が――って、そういうんじゃねえよ」
「なんだ? ピアスは開けさせる気はないぞ。堅太がお揃いがいいって言っても堅太のかわいい耳を飾る必要なんかない。そのままが一番だ。あ、俺の骨で作った装飾品ならいいな」
 
 洋服だって堅太には必要ない。
 堅太は着飾る必要もなく完成している。
 でも、俺の骨を削り出して作ったピアスとかなら堅太の耳にあってもいい。
 俺のことを常に感じられて堅太も大満足だろう。
 
「ガチで病んでる人に現実を見てもらうための会話術ってどっかにあった気がするけど俺、出来る気がしねえわ」
「玖波那ができないことがあるとは珍しいな。テストの成績以外は問題がないと思っていたが」
「あぁ、陛下はコミュニケーション能力以外は最高だよね」
「コミュニケーション能力が低いわけじゃない。蛇や狐や豚どもと会話する気がないだけだ」
「俺、人間扱いされててホント嬉しい。陛下大好き」
「そうか、俺は玖波那が嫌いじゃないが俺の愛は堅太にしか捧げられてないからお前の片思いだ」
「友情をくれよ」
「俺の一番の友達の座も堅太のものだ。俺の感情は全部堅太に捧げてる」
「そこまで思ってんのに……なんだって……はぁっ」
 
 頭を抱える玖波那の肩を叩いて俺は立ち上がる。
 
「俺と堅太の仲を回復する何かいい案を考えてくれ」
「えー、無理じゃね」
「卒業までに復縁できなかったらお前を殺す」
「思い詰めないでよ」
「目の前で友人の指が一本ずつなくなっていく光景に堅太も思い直してくれるはずだ」
「復縁してもそこに愛がないよ」
「じゃあ、堅太にお前を殺させる」
「やめてっ、罪悪感で縛りつけようとするの、やめて。そんな計画に俺を巻き込まないでっ」
「お前も知っての通り堅太は優しいからお前の顔面がグチャグチャになった頃には俺に泣きながら縋りついてきているはずだ」
「俺、ケンちゃんと一緒にどっか逃げようかな」
「出来ると思うか?」

 軽口とはいえ許せない。
 堅太と愛の逃避行は俺だけの特権だと決まっている。
 
「会長の仕事頑張って、頑張ってるのはケンちゃんのためだよアピールとかどう? 親衛隊ともちゃんと話してケンちゃんに住み心地のいい学園を目指します、みたいな」
「本当、玖波那は冴えているな」
 
 俺には思いつかない遠回りで効率の良くない方法だが何もしないよりもいい。
 会長をしているのは堅太のためのようなものだから間違ってはいない。
 
「あ、ケンちゃんの同室者だけど」
「俺の話か」
「違うって。転入生が来るんだって、そういう話。寮の部屋はケンちゃんと同室になるの。理事長の親戚の超絶美形だってさ」
「今すぐそいつを殺す許可を! 俺が許可する。さて、完全犯罪を始めるかッ」
「いや、落ち着いて。逆にこれを切っ掛けに仲直りとか……ね?」
「玖波那の有能ぶりには頭が下がるな」
「それほどでもないっす。急にケンカ売ったりケンちゃんを困らせたりしないようにね」
 
 生徒会室に行けば転入生の細かい情報があるかもしれない。
 こういう時に使わなくて何のための権力かわからない。
 俺は玖波那に礼を言って風紀室を出た。
 
 会長を辞めることはできなかったが俺と堅太は運命の赤い糸で結ばれているのだと確信できたので気分がいい。
 放課後にまたこっそりと見つめに行こう。
 

prev / next

[ アンケート ][拍手][ 青い鳥top ]

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -