青い鳥を手に入れる努力は並大抵のことじゃない | ナノ

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 写真の件から数日後、俺は気になっていた人物を待ち伏せた。
 浮気した彼の写真を俺の机に入れている人間が誰なのか知らなければいけない。
 もう現実から目をそらし続けられない。
 俺は覚悟を決めていた。
 
 彼の親衛隊の活動にしては彼に近すぎるものが多い。
 望遠レンズなどによる隠し撮りなら浮気現場以外のものも写真に収めている可能性が高い。
 彼の家は彼を後継者として見ている。
 大切な跡取りである彼に何かあっては困るだろう。
 スキャンダルになりかねない物的な証拠で何か不利益を被ることになったら俺との関係以前の問題になる。
 写真を俺の机に入れている人間が撮影した人物と同じだとは思わないが繋がりはあるはずだ。
 俺への嫌がらせ以外に彼の写真を使うことがないように話をつけなければならない。
 本当なら彼に相談して対策を練るのが一番だったが彼が浮気を認めるところを見たくはなかったし、 別れ話になりかねないのでまずは自分だけで動くことにした。
 この時、俺はまだ彼と恋人同士であり愛し合っているという幻に縋っていた。
 決定的な状況になるのが怖かった。
 写真が誰の手によるものなのか確認するぐらい俺だけで出来る簡単ことだ。
 そう言い聞かせて彼にこの事を話したりしなかった。
 冷静に話し合えるとも思えないので仕方がない。

 そして、俺は信じられないものを見た。

 俺の机に写真を入れていたのは彼だった。

 混乱して呼吸を忘れている間に彼は教室から出て行った。
 思い起こせば彼と二人で登校した朝は机の中に何もなかった。
 いつも昼に食堂から帰ってきた時に写真を見つける。
 彼が夜に帰って来ない日は朝に必ず写真があった。
 彼と誰かの写真に衝撃を受けてきづくことのなかった法則。

 彼が帰って来ない夜に怯えるのは翌日の朝にある不安への回答のような写真を見るのが嫌だったからだ。

 俺は彼にとって何なのだろう。
 写真は彼からのメッセージだ。
 愛してないと伝える手紙。
 そういうことだろうか。
 違うのならどういうことだろう。
 彼は優しさから口にしなかっただけで本心ではずっと別れる機会をうかがっていた?
 察しが悪い俺がいけない。
 心は折れていた。
 
 

 昼休みに彼は俺を訪ねてきた。
 これはよくあることだった。
 仕事が忙しくても彼と俺が顔を合わせない日はない。
 けれど、学校の中で俺は彼に甘えない。
 周りの視線に負けて当たり障りのない会話しかしない。
 俺の日常はそうして保っていた。
 それもどうでも良くなった。
 俺を食堂に誘う彼に俺は抱きついた。
 これで突き放してくれたなら俺はまだ愛せたかもしれない。
 今までずっと目立ちたくないと主張していた俺の気持ちを彼が汲んでくれたのなら俺の凍てついた心も少しは解けたかもしれない。
 理性を捨てて感情のままに抱きついて震える俺を教室にいるからと正気に戻してくれたなら彼を愛したままの俺だったかもしれない。
 今ではありえない仮定。

 彼は嬉しそうに、幸せそうに俺に触れる。
 昼休みの教室でまるで物語のヒロインを前にした相手役。
 慈しみにあふれる視線を受けながら俺の心は氷河期だ。
 
 彼は俺にもっと甘えていいと言う。
 寂しくさせて悪かったと謝った。
 質の悪いマッチポンプに笑ってしまう。
 俺を傷つけるのは彼で俺を癒すのも彼。
 天然なら天性の詐欺師。
 そんなに俺を追い詰めるゲームは楽しかったのだろうか。
 
 俺は彼から貰った部屋の鍵を返した。
 不思議そうな顔をする彼に別れを告げた。
 もうそうする以外の選択肢なんかない。
 これで終わりだなんてもちろん思ってない。
 彼は不可解な顔をするばかりで何もわかってない。
 わからせないといけない理由も俺にはなかった。
 それでも何の説明もないままで彼が納得するわけもなかった。
 
 どうして、なんでと聞く彼に食堂までの道のりだけ話をすると伝えた。
 教室の外に人が集まりすぎたので移動しながら会話した方がましだと思った。
 こんな俺の気持ちもきっと彼は分からない。
 彼に写真を渡せば「嫉妬しているのか?」と聞かれた。否定しておく。
 もうそんな感情は通り過ぎた。
 いいや、俺は始めから嫉妬などしたことがなかったのかもしれない。
 ただ不安だった。離れるのが嫌だった。好きだから一緒に居たかった。
 それを彼に伝えれば一瞬、彼の足は止まった。
 振り返って俺は浮気したいならすればいい、別のやつと付き合いたいならそうすればいいと告げる。
 俺たちは別れたのだから後は彼の勝手だ。
 すでに俺たちは他人だ。
 

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