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親愛と尊敬をこめて葛谷博人を隊長と俺が呼ぶのにはわけがある。
朝霧きよらという存在をよく理解してその上で最高のプロデュースをしていた。
驚くほどに葛谷博人は朝霧きよらを分かっている。
きよらにとって嫌なことがない世界。
不快じゃない空間。呼吸のしやすい場所。
整えたのは紛れもなく副会長親衛隊の隊長である葛谷博人。
彼の愛は疑いようもないほどに深い。
自分が死んできよらが幸せになるなら喜んで死ぬ人間。
何が彼を駆り立てるのか知らないが隊長にとってきよらは絶対の存在だ。
だから、親衛隊員を増やす時のやり方や発言権のある生徒との信頼関係を築くやり方が多少、荒っぽくても俺は咎めることが出来なかった。
生半可な覚悟で隊長が動いているわけではないことを知っている。
俺のような人間にやりすぎだとか自重しろなんて言えるはずがない。
俺の持ついくつかの肩書きを思えば諌めるべきだとしても、言えなかった。
それは、きよらにとって必ずプラスであることを知っていたからかもしれない。
神様に愛された人間は不幸である。
神様扱いされることが多い俺に好かれるのだって同じように迷惑じゃないだろうか。
それを思ったのは中学できよらに声をかけられた時だ。
今でも思う。あの時に出会えてよかった。
切っ掛けをくれたのは葛谷博人。
だから俺は隊長が無茶をしてもフォローしようと思えるぐらいに気に入ってる。
『……それで周りへの抑止力に親衛隊に入れって?』
『難しいでしょうか』
『俺が誰か知っているよね』
『あ、はい! 釣鐘晴太先輩です。ハレタじゃなくてハルタですよねっ』
『悪いけど、あんまり自分の名前好きじゃないんだ』
『そうなんですか』
困った顔をするきよらはつい先日まで小学生だった。
ひ弱な印象はない。
綺麗な造りの顔は折れそうな儚さがあってしかるべきなのに困ったり笑ったり焦ったり、人間味にあふれていた。
なんだか好感が持てた。
『ハル先輩って呼んでいいですか?』
あだ名は初めてだ。
気安い友達は本当のところいないのかもしれない。
秋津以外はクラスメイトや知り合いなどというカテゴリーかもしれないと思うと淋しい。
釣鐘という名字は親を示すことが多い。
だからか学園内で名前で呼ばれる。
人から名前を呼ばれたくないと思い始めた切っ掛けはなんだっただろう。
治田という同じクラスの素行不良な奴と間違えられたくないからか、単純に秋津と関連付けられる名前だから気になるのか。
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