副会長は何がなんでも頑張らない | ナノ

  1


ハル先輩視点。

 釣鐘晴太という自分のことをハル先輩と呼んでくるかわいい後輩。
 彼を思う時にどうしても浮かび上がる言葉がある。
 
「――神様に愛された人間は不幸である」
 
 口に出した言葉を秋津が聞き返してきたが適当に誤魔化した。
 誤魔化しているのを分かった上で誤魔化されてくれる秋津は良い奴だ。
 いつも思うが秋津は世間ずれしていない。
 もっとずる賢くなってもいいはずなのに真っ直ぐで真っ白。
 祖父母の教育方針なのだろうか。
 鋼の精神を持っていながら秋津は純真だ。
 罪人の首を刎ねることに何の罪悪感も持たないような真っ白な人間。
 人を殺したことはないだろうが必要なら秋津はするだろう。
 俺はどうだろう。
 紙の上での死ならともかく必要だったとしても人を殺すことが出来るだろうか。
 
 現代日本でぶち当たるはずがない問題だ。
 秋津が良い奴にもかかわらず忌避されるのは自分たちと根本的に覚悟が違うと感じるからかもしれない。
 恐れられているというよりも本能的に恐怖を懐かれている。
 自分を殺すかもしれない存在は誰だって怖い。
 どんな行動をとろうと彼が彼であるというだけで人々は畏怖する、その理由。
 血筋の問題になるのなら責任の所在はどこだろう。
 もし、それが俺のせいなら申し訳がないし気分が悪い。
 
 異常なこと、呪いのような現象、それらは古い血脈に由来するなら秋津という家に生まれたことがそもそもの間違い。
 
 古くからある言い伝え。
 神様に愛されると世界から嫌われてしまう。
 いいや、神様に愛されるという贔屓に人間に嫌われてしまうのかもしれない。
 それは葛谷博人という後輩が必死になって排除した、親衛隊が行う制裁の在り方と似ている。
 きよらのために隊長が制裁をなくしたのは俺の中である種の革命だった。
 完全には失くさず形を変えて存在させることで平和的な解決方法になっている。
 
 人はどうしても自分と他人を比べてしまう。
 どうして彼だけ贔屓されるのか、神様の特別などあってはいけない、人間ごときが近づける方じゃない。
 
 世界から嫌われる、そのことは不幸だ。
 神様にいくら愛されたところで同じ立場の存在から疎外されるのは悲しい。
 心が強くたって人から悪意を向けられ続けるのはつらいだろう。
 親衛隊から制裁を受けるのはどんな奴でもつらい。
 
 俺は善意のかたまりだと言われるけれど秋津の悩みを取り除けない。
 数少ない彼の望みを俺は知りながらも対処できない。
 普通の人間でありたいと願う秋津の気持ちは分かる。
 解決策もおぼろげながら思い浮かぶが血に由来する呪いならどんなに頑張っても徒労なんだ。
 それはすでに決められていることだから。
 諦めているとか割り切っているとかそういうことじゃない。
 血は遺伝子情報というけれど過去の記憶を載せている。
 ある状況が整ったら発動する、分かりやすく言えば魔法のようなものが古い血には刻まれている。
 
 秋津に解放の時があるのなら、定められたものが転がり込んだだけ。
 そのために必要な努力や手助けがあるかもしれないが無理なものは永遠に無理だし、出来るのならタイミングが合えば結果は出る。
 世界の法則として釣鐘の家が伝える一つの真実。
 
『私たちは恵まれている。だから人々に優しく接しないとならない』
 
 そんなことを言われて育った。
 恵まれて満たされた釣鐘の人間が他者に奉仕するのは当然のことだと教えながら、どうしようもないことは手出しをしたところで無意味だと告げられる。
 親友と言っていい相手に対して冷たくて酷い俺が善意のかたまりなんて有りえない。
 
『運命の導きに従うのが釣鐘だっけ? あは、運命ねえ。目の前で大切な人が殺されそうになっても、宝物が壊れそうになっても……そう言える?』
 
 そう言われたこともあるが、そもそもが起こらないのだ。
 釣鐘の人間にとって致命的なことは絶対に起こらないようになっている。
 
『あははは、つまり仮にキミの恋人が死んだなら……そんなに大切じゃなかった、そういうことだね』
 
 こればかりはその時にならなければわからない。
 だが、伝え聞く限り釣鐘の人間は保護されている。
 運命という名の宗教を崇めているのではなく実際問題として釣鐘の人間が居る場所は死や争いから遠い。
 滅びない血族と噂されるような釣鐘。
 金を蓄えるでもなく、権力や地位にしがみつくでもない釣鐘は特殊だった。
 釣鐘に盾突くと滅びるなんてことはないが釣鐘の味方でいれば負け知らずというのは有名な話だ。

 だから、釣鐘という血筋は神様になれる。
 勝利をもたらすものとして崇められて変な期待と崇拝に翻弄される。
 
 神様に愛されている人間というのは良くも悪くも目立つし世界の中心になる。
 秋津は恐怖という名の存在感を常に発して、きよらはいるだけで場の空気をプラスかマイナスに物事を動かしてしまう。
 本人も理解していない才能と言うのはある。

prev / next


[ 拍手] [副会長top ]

×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -