副会長は何がなんでも頑張らない | ナノ

  031 副会長と会計のメール1


金曜日の夜。

 
 あれ、会計の榎原からメールが来ている。

 ハル先輩に部屋まで送ってもらって少しお茶して話した後、博人から何か連絡来るかと思ってケータイを見れば榎原。
 なんでだろうと思いながら中身を見れば「どこまで知ってる?」だった。
 どこまでも何も知らない。
 
「知らないといけない?」
 
 と返信してみた。
 俺が知らないのは単純に噂が入ってこないのもあるけれど俺を知らないままでいさせようという意思がある。
 たぶん、博人あたりが気を利かせてくれているんだと思う。
 久世橋に自分の影響力も自分の周りのことも知らない能天気と言われるけれど俺がそうなのは博人が頑張っているからだ。
 博人が頑張って俺が何もしなくてもいいようにしているのに俺が手を出していったら台無しだ。
 何せ俺は頑張らないことになっている。
 ただ与えられるものを受け入れていく。
 
『知りたいとは思わない?』
 
 榎原の返信に俺は「博人から聞くよ」と返す。
 俺の勘違いならいいけれど博人が俺のことを思って動いてくれているのに俺が余計なことを知って動いた結果、足を引っ張ることになったら危ない。
 たとえばおとり捜査なんかでおとりである本人に知らせると演技できないおとりは挙動不審で逆に邪魔。
 
「何か考えがあるなら邪魔したくない」
 
 俺は博人が俺のことを好きだって考えもしなかった。
 そういう失礼な奴なのに、それを分かった上でも博人はそばにいてくれたんだ。
 俺がどうしようもない奴だって知った上で博人が俺を好きでいてくれるなら何をしているにしても博人の邪魔はできない。
 親切で榎原が教えてくれようとしているのは分かるけど博人を裏切ったり足を引っ張ることになるかもしれない。
 
『どうしてそんなに信用してるの』
 
 だって、博人は俺の親衛隊長じゃないか。
 今までもそういう意味で信用していた。
 博人は俺の安全とか心の平穏とか博人にとってなんの役にも立たないものを守り続けてきてくれた。
 義務感だと思ってたけど違う。
 優しさだと思ってたけど違う。
 愛しさからくる感情で見返りを求めない綺麗なものだった。
 俺はきっとハナちゃんに見返りを求めていたから浅川花火との別離は必然だった。
 
「博人が俺を嫌いで俺を貶めたいって言うまで信じてるよ」
 
 これは綺麗じゃない。
 久世橋が博人をクズだと罵るけれど俺は博人からもらった優しさを忘れちゃいけない。
 今日の朝のことを思い出す。
 登校した時の会話、風紀室であっちゃん先輩との会話。
 俺が逃げていることは誰の目にも明らかでそれが苛立つ人は多いんだろう。
 
『アンタは自分が何してるのか分かってんの?』
 
 廊下で通り過ぎる時に久世橋に言われた。
 
『被害者ぶってかわいそぶって自分は手を下さないで場を整える』
 
 視線の強さに後退りそうになる。
 綺麗でかわいらしい顔立ちに憤怒を乗せてこちらを睨む久世橋。
 浅川花火の親衛隊長だからこそ俺にいろいろ思うこともあるのだろう。
 
「俺と会長がセットじゃないのってそんなに変?」
『四六時中一緒だったからね〜』
「今までがおかしかったってことじゃない」
『会長離れは別にいいんだーけーどー』
 
 一行ずつのメールのやりとり。
 じれったいとは思わない。
 頭の中を整理できる。
 
『転入生が「自分はきよらの大親友で運命の恋人」だって言い出したのはオーケー?』
 
 全然OKじゃない。
 結局、榎原は教えてくれた。
 金曜日の夜の食堂でのあれやこれ。
 たぶん、あっちゃん先輩がハル先輩と居なかったのは風紀として事態をおさめにいったのだ。
 そしてハル先輩は食堂で食事が出来ないと思って俺達のところに来た。
 どれぐらい混乱が出てたのかは正直分からない。
 これが金曜日じゃなかったら登校したら変な視線に晒されたかもしれない。
 でも、幸いにして金曜日。
 土曜日だって授業はあるけど明日は特別授業で人を招いて音楽鑑賞会。
 それは生徒会が司会を務め午前中で終わる。
 サボる人間も多いが教養のためと音楽関係の学校や職種に進みたい人にとってはプロの奏者に質問タイムがあるこの鑑賞会を大切にしている人は多い。
 
 榎原とのメールはそこで終わった。
 転入生は変な人だという再認識をしただけだ。 
 それ以外考えなくていい。

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