副会長は何がなんでも頑張らない | ナノ

  027 副会長親衛隊の内情1


副会長親衛隊所属、毒キノコ君視点。犯罪行為を普通にしています。

初等部、中等部は普通に街の中あり、高等部は山の中。
大学部は駅近くという立地条件だから中等部で育んだものを高等部で発芽させる人が多い。(具体的な言い方はしません)



 山王寺センパイが狂っていると言われるらしいけど、どこらへんがおかしいんだかおれにはサッパリ。
 おれを「玖珠地(くすち)」と呼ぶ時のセンパイはおっとりはんなりしている。
 口調は普通の人とは違う気がする。
 
「きよらさんに小虫がつくのはいただけない、わかりますね?」
 
 瞳はギラギラしていて真剣な感じが山王寺センパイの本気度をあらわしてる。
 もちろん、おれは強くうなずく。
 
 副会長をなさっているきよら様はとても優しい。
 
 おれは本当ならこんな学校に来れるような人間じゃなかった。
 街で遊びほうけていて義務教育である中学が終わったらそのまま野垂れ死にするかもしれないようなバカな奴。
 親はよく分からない。
 見た覚えはあるけど顔を覚えていないから外で会っても分からないかもしれない。
 たぶんいるんだと思うけど記憶にない。
 小学校に行った覚えはあるけど中学は理解できなくて行くのをやめた。
 
 お腹が空いたらカツアゲで手に入れた金でカップ麺。
 カップ麺は安いから節約だ。
 その程度には頭が回った。
 カツアゲだってずっとは続けられない。
 バカでも明日は生きてても一年後には死んでるかもしれないってことを想像する危機感ぐらいある。
 学校にも行かずほとんど何もしないで生きているおれはバカなりに考えることで時間を潰していた。
 
 店から強盗するのは危ないからしない。
 脅したり暴力でカツアゲをする方が安全だ。
 運が良ければ大金も手に入る。
 警察を怖いと思ったことはない。
 不思議と暴れていても縁がなかった。
 いつか仕返しされて死ぬんだろう。
 自分のしたことが返ってくるのが因果応報なんだと聞いた。
 おれは何故かそれだけはどうしてか覚えている。
 そういう話はよく聞く。覚えてろと言われることもある。
 未来のことより今の空腹をどうにかするのが大切だからおれはカツアゲをする。
 やめるときは死ぬときだろう。ご飯を食べなければ死ぬのだとおれは知っている。
 
『お話し、いいですか?』
 
 おれがカップ麺をすすっている時にその人は現れた。
 小奇麗なフランス人形を黒髪黒目にしたような人だった。
 顔の造りが小さくて手足だって細い。
 白い肌は血の気が引いて青白くすら感じるからより一層、人形っぽい。
 おれが買う日はないし触ることもないけれどショーウィンドーに飾られた人形をどうしても見つめてしまうことがある。マネキンとは違う愛でられるための人形。
 横に座ったので思わずうなじのラインをガン見してしまう。
 髪の毛がもう少し長ければ女に見えたかもしれない。
 そのぐらいに線が細い。
 触れたら折れそうというのはこういう人のことだと思わず箸をとめて、おれは彼が話し始めるのを待った。
 少し戸惑うような、照れ臭そうな顔をして彼はおれを見上げる。
 
『なんか、喋ってください』
 
 無茶ぶりだった。
 年上の雰囲気から一転して年下の子供が年の離れた兄に願うような、そんな風に見える。
 綺麗で手垢などつけてはならない高級な人形から一転して公園で年上の後ろを歩く子供に見えてきた。
 おれに兄弟はいないけど彼が弟なら自分の分のカップ麺も渡して決して飢えさせることはしなかっただろう。会ったばかりの人間なのにおれはすでに彼に飲まれていた。
 おれは彼に食べかけのカップ麺を「いる?」とたずねる。

 思い返せば最悪だ。
 
 彼の育ちを考えればカップ麺をゴミ箱に入れられても仕方がない。
 けれど、これがおれのとっては最大限の好意だった。
 食べ物がなければ生きていけない。
 その食べ物を人に渡すなど今まで考えられないことだ。
 彼は少し安心した顔で「一口だけ」と言って受け取ってくれた。
 カップ麺を食べているとは思えない上品な仕草で食べた。
 ずずっとすすって食べていたおれと彼は違いすぎた。
 同じ割り箸を使って同じカップ麺だったのに違う。

 音が立たなかったから?
 身体を丸めてないから?
 そもそも麺を箸で折り畳むなんて器用なことをしたから?
 
 おれが注目していることに気づいて慌てる彼に「おれは玖珠地(くすち)」と口にすると「俺はきよら」と彼は名乗った。
 街で派手に暴れているキヨという男がいると聞く。
 目の前にいる美人がキヨなんだろうか。
 キヨは卑怯な手を使い人を陥れたりするらしい。
 仲間同士を争わせたりもする。
 噂には尾ひれ背びれがつくものだから全部が本当でないことは知っている。
 
 でも、キヨは髪の色が黒ではないと聞いた気がする。
 中学生なのに生意気だとゲラゲラ笑っていた誰かが翌日に公園でボロボロで倒れていた。
 彼の指先は綺麗でケンカをしている人間には見えない。
 
『なにが、……なにを、喋りたい?』
『何でもいいですけど……何かありますか』
 
 無茶を言われておれは黙る。彼が何を求めているのか知らないし何よりおれは友人もいないし何もやっていないクズだ。
 毎日毎日ただカツアゲで得た金でカップ麺を食べて歩き回ったり公園のベンチで座って遊びまわる子供や同い年の不良を見る。
 
『どうしておれにしたんだ』
『あなたが優しいから……だから、俺の練習に付き合ってもらおうかと思って』
 
 不思議なことを言う人だと思った。
 当たり前だがおれは優しくない。
 人を殴ったり殴ろうとして金を脅し取っている人間だ。
 優しいというのは弟がぐずって泣き出した時に頭を撫でて泣き止ませていた兄だ。
 小さな兄弟をおれはベンチに座って見ていた。
 見たことのない人間関係。
 誰かが泣いてもおれはどうでもいいことだと思っている。
 だからカツアゲができる。
 お腹が空いて金が欲しいのに泣きながら財布を渡してくる相手に同情なんかしない。
 財布に大切なものを入れている奴が多いのは知っているから金だけ貰って財布は返す。
 鞄や他のものも取らない。
 投げ出された買い物袋の中の食べ物は有り難くもらっていくが品物である場合は知ってる店なら店先に物を返しておく。
 店の人が気づいて保管するだろうし、買い直しに行くのなら何かの縁で手元に戻ってくるだろう。
 
 おれは優しくなかったけれど不安そうな顔をするおれの弟ならかわいがっただろう彼の望みを叶えようと思った。
 
『練習って、なんの?』
『人と話す練習』
『話せないの?』
『わからない。でも、すごく怖い』
『おれは怖くないの?』
『どうして?』
 
 さっきから質問を質問で返されることが多い。
 それは子供の仕草だとおれは知っている。
 母親や兄に小さな子供が「どうして?」「なんで?」と聞き続ける。
 それにちゃんと答えてやるのが年上の務め。
 けれど、彼はおれより年下には見えない。年上にも同い年にも見えない。
 彼がこれから育つこともなくずっとこのままでいるような気はした。
 まるで人形のよう。
 
『俺を追い払ったりしないでご飯をくれて話を聞いてくれてるのになんで怖いの』
『おれが殴ったりしたらどうすんの』
『殴るの? なんで?』
 
 また「なんで」だ。
 おれが頭が悪くて正解が言えないから彼は「なんで」と言うんだろう。
 
『ムカついたら人を殴る奴もいるから知らない人には話しかけちゃダメ』
 
 そういうことを兄が弟に言っているのを見た。
 たぶん知らない人っていうのはベンチに座っているおれだ。
 小さな弟はときどきおれをチラチラ見ている。
 学校に行っていないことが不思議なんだろう。
 
『でも知らない相手なら殴ってくるかもわからない』
『知り合いが怖いの?』
『うん、怖い』
『それなら仕方がない』
 
 こんな思い出すと中学生同士の会話とは思えないところからおれと彼のやりとりは始まった。
 彼が金持ちの学校の中等部に通っていて校内で数時間、拉致監禁されて数日しか経っていなかったことなど、この時のおれは知らなかった。
 
 生気のない人形のようにしか見えないのにふとした拍子に見せる表情がとても生き生きとしてかわいいと思った。今なら彼の笑顔を何と表現するのか分かる。あれは「あどけない」と言うんだ。
 幼く無邪気でかわいらしい。
 綺麗な人形には不釣り合いな言葉は彼を見ると浮かんでくる。
 
 人形はカップ麺なんか食べないし、人形ならきっとおれに話しかけてくることもない。
 彼が人間だったからこそおれたちの出会いと今がある。
 

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