副会長は何がなんでも頑張らない | ナノ

  021 副会長と親衛隊とクッキング2


 冷やして固めて、はい出来上がりっていうのもいいけど蒸したりする料理が俺は好き。
 火が通るとなんだか安心するってのはちょっと切ない。

 今日は薯蕷《じょうよう》饅頭を蒸している。
 あんこは和菓子の系列の家の子が提供してくれた。
 それって売り物だからお金払うべきだと思うんだけどとオドオド言ったら博人とすでに話がついているから気にしないでいいと言われた。
 俺の親衛隊と言っても俺が管理しているわけじゃないから、博人の名前を出されたらノータッチでいくしかない。
 レシピも和菓子の子の家のものらしいけど秘伝じゃないんだろうか。
 門外不出とかじゃないの?
 大丈夫なのか怯えながらあんこの包み方を教えてもらって滅茶苦茶楽しかった。
 
 これやっていいの? みたいな空気を吹き飛ばしてあんこを包む。
 一発勝負でドキドキですよ。
 
 綺麗に包めないと口触りが悪いし見た目も汚い。
 てっぺんに生地がありすぎるとおしりの方に生地が残らなくてあんこが隠せない。
 でも、おしりに生地がありすぎると蒸す時に上からあんこが見えて汚い。
 あんこを包む皮は薄い方がいいってことであんこと同量ぐらいの生地の量。
 きちんと包めない親衛隊の子もいてそういう子は別の作業。
 
 今回のクッキングタイムは急にやることになったからいつもよりは少ない集まり。
 そうは言っても三十人はいるから軽くクラスでの授業みたいな雰囲気。
 三年生が心持ち多くて一年生は外部生や調理の経験がちゃんとある子が中心。
 丁寧に教えるのは俺のいる前じゃなくて親衛隊だけの集まりでやるらしい。
 俺がいる時はまずは俺を中心に物事を決めていく。
 
 俺が和菓子に夢中の内にクッキング部の部長さんや調理の得意というか食堂でバイトしている子などが厨房に立って夕食作り。
 お弁当用のものだけでは足りない高校生男子ですから。
 
 食べ物の匂いがお菓子にというか俺の饅頭にくっつかないか心配したらなんと部屋に仕切りが現れた。
 どういうことかと思ったら。
 元々二つの部屋で壁の取り外しが利くようになっているらしい。
 どうりで広いわけだ。
 

 
 ハル先輩にメールをするとデザートを食べに来てくれるらしい。
 俺達の夕飯はハル先輩たちの日曜日のお弁当なので渡せないがデザートは日持ちを考えてボツにしたものなどもある。
 
 本当なら昨日だったのにという気持ちがまた湧き出てくるけれど無視だ。
 
 そんなことを思っていると電話が来た。
 
 
『夕飯も食べさせてもらえないか?』
「どうかしたんですか?」
『無理かな……?』
 
 理由を言わないが困った調子のハル先輩に俺はケータイのマイク部分を押えて部長さんに「ハル先輩がご飯食べたいって言ってるんですけど」と聞いた。
 少し考えた後、部長さんはOKサイン。
 三人ぐらいに指示を出して自分は冷蔵庫へ。
 追加で何が現れるんだろう。
 いくつもある炊飯器が音を鳴らす。
 ちなみに調理室にある炊飯器は五台で毎回親衛隊のみんながそれぞれマイ炊飯器を持ち込んでいる。
 炊飯器の数が足りないというのもあるが一台二十万円する炊飯器がお気に入りだという人が何人かいるのだ。これは意外にも外部生たち。自炊するからと親にねだったらお米がおいしいと感動したらしい。
 水と米にもこだわっている彼らの情熱はちゃんと俺にも伝わっている。
 ご飯がおいしいのはいいね。
 
 
「あ、ハル先輩。大丈夫みたいです」
『あぁ、行くのは俺だけだ。……それと、隊長から伝言で俺に部屋まで送ってもらうことって』
「泊まりますか?」
『いいのか、それ』
 
 いいか悪いかはハル先輩が決めることじゃないだろうか。
 最上階まで行ったら帰るのが面倒だろう。
 
『きよら、周りの反応は?』

 言われて、そっと周囲に視線を向けると目を見開いて固まっている人が多数。
 普通に考えてまずいのか。まずかったのか。
 親切心だったんだけど何か別の意味にとられた?
 別って言っても俺がハル先輩とどうにかなるなんて思う人なんているんだろうか。
 疑問で頭がぐるぐるしているとハル先輩の声が聞こえた。
 
『きよらはどうしたい?』
「変なこと言ってすみませんでした」
 
 そう答えると笑っている吐息。耳がくすぐったい。
 まあ、こんな日もある。
 ハル先輩には気分を軽くさせてくれる何かがある。
 癒しと言うより和み。
 
『じゃあ、十五分後には着くよ』
「待ってます〜」
 
 電話を切って部長さんに伝えると少し戸惑いながら「きよらさんは釣鐘のところに泊まったことが?」と聞かれた。
 どうしてそう思ったんだろう。
 
「ハル先輩のところに泊まったことも逆もないですよ?」
 
 ただ、屋上で星を見て一緒に徹夜とかはある。
 一人で行動するなと言われてもどうしてもやりたいことがあったりする時にこっそりとハル先輩に話をする。
 博人はそれが悪いことでも俺にできる環境を作ってしまうけどハル先輩はダメならダメで説明をして妥協案をくれるし、付き合ってくれたりするので甘えてみる。
 ハル先輩だって暇じゃないから本当にどうしてもの時だけ。
 
 
 俺の居場所が把握できてないと誘拐騒ぎになってしまうので無断外泊はもっての外。
 だからこそ寮で引きこもっていたわけだ。
 
 俺が飲み食いして元気に引きこもっていたのなら博人は役員フロアまで来なかったかもしれない。
 メールを返していたら榎原だって気にしなかっただろう。
 
 誰かに迷惑がかかるだろう行為を俺がする理由をみんなは考えて浅川花火だと思った。
 転入生との近い距離もその疑惑を後押しした。
 俺は体調不良ってことになって、浅川花火に手出しをしないようにお願いをしたから何の問題もこれから起こらないはず。
 
 それなら、博人はどうしているんだろう。
 
 それだけが疑問だ。
 

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