副会長は何がなんでも頑張らない | ナノ

  019 腐男子Dの叫び


続・完全な外野側からの視点。




 人が連れ去られていた。
 校舎裏を見ていた何か反省文みたいなのを書かされていたので見なかったことにしたくなったが「朝霧」と聞こえたので副会長のところの親衛隊だろう。
 
「副会長心配宗教団体を見たっ」
「それ、人に聞かれたらまずいぞ」
「お前の同室者でもか?」
「何を勘違いしているのか知らないが俺に権力はないぞ」
「またまた御冗談を」
 
 釣鐘先輩と付き合ってる平凡なんだろ。
 ハイスペックに溺愛されるんだろ。
 別にゲイになりたくないから羨ましくなんかないけど釣鐘先輩もし俺を……とか思ったら頷いちゃうかもしれない。
 だって釣鐘先輩だ。
 あの人に愛された人生の幸せが約束されたようなもんだろ。
 目の前の同室者だって「釣鐘の家に衰退はありえない」とか不況の世の中で絶対なんかないのに言いきってたし。
 釣鐘先輩がいたら事業は安泰だよね。
 わかる、わかる。
 ああいうのを出来すぎ君っていうんだろ。
 まあ、嫌味がないのが嫌味みたいな爽やか格好いい尊敬できる人だから気難しい感じの同室者とも上手く距離感が取れるんだろう。
 
「釣鐘先輩との関係、知ってるんだぞ」
「知らないだろ」
「バレた?」
 
 同室者はクールすぎる。
 一年ちょっとの付き合いだが家族構成も誕生日や血液型も何も知らない。
 これだけ寝食共にしてるんだからもっと打ち解けるべきじゃないかと思いつつ腐男子受けのフラグを立てる気はない。
 仲良くしたいけど恋愛的な意味じゃないんだってアピールしてても素っ気ないのは実は俺のこと好きだからとかそういうこと?
 
「なあ、問題は副会長の親衛隊が実は隠密だって話だよ」 
「そんな話してなかった」

 同室者のツッコミは鋭い。
 それが心地いいけどもっと優しくたっていいんだからね!

「なんであんなに副会長を心配してんの。美人には笑っててもらわないといけない的な?」
「釣鐘先輩が心配しているからだ」
「なるほど、わからん」
「友人が困っていたら助けるものだろう」
「親衛隊は過激じゃないの?」
「知るか」
 
 それがここでの常識ってやつですか、そうですか。
 なんか疎外感。
 金持ちの常識として逆らっちゃならない血筋とかこれでも知ってるけど副会長は関係なさそうなんだよな。
 ってか、朝霧って慈悲の天使や奉仕の女神とか言われてるボランティア活動で有名な若い女社長がいたような。
 系列とかじゃなくて直系だから朝霧きよら副会長の姉?
 朝霧の女社長はちょっと前まで学生とかそのぐらいに若かったはずだし、特にアンテナ伸ばしてなくても名前を聞いた気がする。
 一時期はタレントみたいな感じでTVに出てたはず。
 副会長を一目見て感じるのは「美しい」次に「幼い」とか「小動物」って感じ。
 造形としては綺麗で無駄がないんだけど動作がおどおどしているというか視線が泳いでいたりするんだよ。
 で、消極的や内向的なタイプかと思えば言いたいこと普通に言うし笑顔は綺麗で和む。
 とっさに機転が利かないとかそういうタイプなのかな。
 
 美人受けに興味がなかったからそこまでチェックしてないんだよ。
 腐男子的に不覚を取った!?
 
 そういえば登校中に現在の理事長っていうか理事長代理が朝霧って聞いたけど副会長の父親だったりするんだろうか。そうすると転入してきた朝霧ってもしかして。
 
「何話してんだ? きよらのこと?」

 髪と眼鏡で顔を隠しているような彼はキヨヒコ。あまりにもキヨヒコと自分の名前を連呼するから名字が朝霧だったのなんか今日の朝に言われてから思い出した。
 
「なあ、お前って何者なんだ?」
 
 つい口から出た言葉はなぜか教室に沈黙の魔法をかけた。
 やめてくれよ。
 さっきまでざわざわしてたじゃないか。
 普通の昼休みを返してくれ。
 俺に注目するなぁぁ。
 焦る俺にキヨヒコは笑った。
 ぼさぼさ髪で顔の上半分が見えないような姿なのに笑顔なのが分かる。
 邪悪あるいはチェシャ猫のように愉快犯的なニヤニヤ笑い。
 
「知りたい?」
「あ、あぁ……教えてくれるのか?」
「お代はお前の命だって言っても?」
 
 あはは、と笑う転入生は絶対に王道じゃない。
 なんだか得体が知れなくて怖い。
 震えていると肩を叩かれる。気安い仕草はともかくとして結構力が強い。
 否定しておいてなんだが王道かもしれない。
 
「なに? 族潰しとかしてた?」
 
 まさかね、なんて笑っていると「よく分かったな」と返された。
 心臓が痛いぐらいに高鳴っていく。
 なんだかメチャクチャ怖い。
 本当に怖い。勘弁してほしい。
 嫌な予感しかしなくて転入生を見ていると冷や汗が止まらない。
 
「まあ、潰したかったのは族じゃーねえけどな」
 
 口調が、声が、なんだか変質したように変わる。
 生徒会長の浅川花火と話している時は天真爛漫を絵に描いたような明るい声だったのに今は低く男らしい。
 声はだみ声とかそういったことはないのに、なぜか濁って聞こえる。
 絡みついている感情が怖い。
 
「おい、もうすぐ授業だ。席につけ」
「んだよ、くすちー。クラスメイトと仲良く話してただけじゃん」
「……仲良く話してる奴が死にそうな顔すんのか」
「え? あ、お前大丈夫か? 具合悪いなら保健室に言った方がいいぞ」
 
 言われて俺は苦笑いをした。
 内心で叫んでいた。
 全体の髪の色を青紫色にして赤のメッシュなんか入れてるどこからどう見ても不良と普通に話す転入生。
 これは同室者である不良×転入生の王道パターンじゃねえのか!!
 血の気の失せた顔を紅潮させる俺にクールな同室者から一言。
 
「玖珠地は副会長親衛隊だ」
 
 んんだよぉ!!!
 やっぱ副会長総受け展開か!!!!!
 
 べ、べつに嫌いなんかじゃないんだから、勘違いしないでよねって、内心でツンデレしてみるけど副会長はガードが固いから見つめるのにも限界があんだよね。
 
「副会長が気になるならお前も親衛隊に入ればいい」
 
 心配団になるのか、俺も。
 確かにあの転入生と生徒会長とか色々と副会長の周りは心配になってきたけど俺も過保護団体に加入しちゃっていいのか!?
 
「自分の目であの人を見るといい」
 
 同室者は釣鐘先輩とデキてるわけじゃないって言うけど、じゃあ、なんなんだろう。
 
「あの、さ、……好きな人いるよな」
 
 疑問形ですらない。断言。
 俺は確信していた。同室者は恋をしている。
 
「言ってなかったか?」
 
 事もなげに同室者は言い放ちましたとさ。
 
「俺はあの人の親衛隊に入ってる。そして、釣鐘の家に従属している」
 
 変な勘ぐりはよせよと同室者は言った。
 新事実を放り投げて去って行くのやめてくれませんかね。
 と思いながら俺は予鈴を聞いていた。 

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